抄録
動物の潜水行動は古くから人々の興味の対象であり,多くの研究者が動物の潜水能力とその生理的働きについて探求してきた。この課題解明に取り組んだのは生理学者で,彼らは最初に実験室で研究を開始した。1940年代以来多くの生理学者が実験施設や人工的な池において海鳥やアザラシを強制的に潜水させて,おもに循環器系の潜水反射についての研究を実施してきた。その後,強制潜水と自然状態での自由潜水との違いについての長い議論を経て,自由潜水行動の研究が開始された。自由潜水行動の研究は,クーイマンが1960年代半ばに初めて時間潜水行動記録計(TDR)をウェッデルアザラシLeptonychotes weddelliに用いて行った。1980年代に入り,TDRの開発が進み,性能のよい計測器の利用が可能になると自由潜水行動の研究は急速に発展し,動物の潜水行動研究で予想を超える成果が生まれた。研究は生理的関心から出発したが,捕食生態研究でも大きな関心が広がり,この方面からの関心の高まりで新たな機器,特にマイクロデータロガーの開発が進んだ。現在は,水深,遊泳速度,照度,環境温度,体温,食道温度,多軸加速度,多軸地磁気,心拍,心電図,筋電図,画像などを計測•収録できる多重センサー小型記録計が開発され,海鳥,海獣類の潜水行動,生態,生理学の研究に利用されている。技術がこれらの機器開発に大きな役割を果たし,その結果,研究に新しい展開が開かれた。現在も研究は進みつつあり,技術的側面からの研究レビューも必要と思われる。本稿では主として日本における研究の発展過程とそれを支えた研究手法の進展についてまとめた