抄録
静岡県静岡市の有度丘陵の農道上に,8月から10月にかけてアカメガシワ Mallotus japonicus を含むハシブトガラス Corvus macrorhynchos とハシブトガラス C.corone の排泄物が多く落とされていた。そこで,種子散布を介したカラス類とアカメガシワの相互関係を明らかにするために,排泄物を定期的に回収し,内容物分析を行い,種子の含有率や採餌された種子の消化度合いを調査した。調査期間中に合計283個の排泄物が回収され,排泄物中から16植物種の果実や種子および昆虫類の破片が検出された。アカメガシワ種子は,16植物種中最も多くの種子が含まれていたが,エノキ Celtis sinensis var. japonica や昆虫類とほぼ同時期に同程度利用されており,カラス類にとって重要な食物のひとつと考えられた。アカメガシワ種子の外種皮は脂質に富んでいるが,種子当たりの可食部位は少ない。このため,カラス類はアカメガシワ種子を大量に摂取していると考えられた。アカメガシワ種子の外種皮の消化度合いは,排泄物によって異なった。昆虫類と同時に含まれるアカメガシワの種子では,外種皮が消化されているものが多く,植物質と同時に含まれるものでは,未消化のまま排泄される傾向にあった。アカメガシワの種子は,昆虫類破片が含まれることで,外種皮に傷がつき消化が促進されると考えられる。未消化で排泄されたアカメガシワ種子には外種皮が残存しており,アリによる二次的な採餌が観察された。カラス類によって未消化のまま排泄されたアカメガシワ種子は,二次的な散布の可能性を残しているといえる。