2020 年 58 巻 4 号 p. 231-239
キノコとは,分類学的には担子菌や子嚢菌の子実体(fruiting body)の総称であり,ほかの生物種にはないユニークな化合物を数多く産生している.薬理効果を示すキノコも多くあり,霊芝(マンネンタケ),冬虫夏草(子囊菌類が昆虫類に寄生し,最終的に宿主から発生したキノコの総称)などは古くから貴重な薬として用いられている.キノコからは抗腫瘍,抗菌作用のほかさまざまな生理作用を示す化合物が単離されており医薬品の分野での応用をはじめ,日常的に摂取することで疾病の治療や予防が期待されている.キノコは地球上に14万種以上存在するという説があるが,現在まで1万種ほどしか命名されておらず,さらにその命名されたキノコのうちの10%程度しか2次代謝産物に関する研究が行われていない.キノコはいわば「未開拓の化合物の宝庫」なのである(1).