2023 年 68 巻 p. 13-34
小規模法人の多くは経営者が株式のほとんどを保有するオーナー経営(owner-managed)であり,企業活動で得た所得を税率の低い課税ベースに移す節税が起きやすいことが報告されている(例えばSlemrod, 1995)。この問題に関して日本では従来から,「欠損法人問題」が指摘されてきた。ポイントは,日本では 法人税率が高い一方で,給与に対する所得税率(社会保険料率も含む)が低いことであった。そのため,多くの小規模法人の経営者が事業で稼いだ所得をすべて自身の役員給与で受け取って,法人に所得を留保せず法人税負担を避ける節税を行う結果,中小法人の多くが欠損法人になっていると言われた。
しかし近年,日本では社会保険料率の引上げによる実質的な所得税率引上げとともに,法人税率が断続的に下げられてこの状況が変化した。このうち,法人税率引下げについては重要な機会が2回あった。すなわち2009 年の中小法人向け軽減税率引下げと,2013 年以降の数年間における本則税率引下げである。
八塩(2020)では財務省による22 年間の「法人企業統計年次別調査」の個票データを用い,このうちの1 回目である2009 年の軽減税率引下げが小規模法人経営者の節税を誘発した可能性を分析した。本稿ではこれを踏まえて同じデータを用い,2 回目の法人税率引下げである2013 年以降の本則税率引下げについて分析する。そして実際に,本則税率引き下げ後に一部の経営者による節税行動が誘発された可能性 があることを示し,それを踏まえて政策インプリケーションを検討する。