抄録
本論文は,歴史的および数量的な観点から費用と収益の対応を説明している。発生主義会計において,費用収益対応原則は期間損益を測定する際の要諦である。第2次世界大戦後,日本は積極的に米国の会計制度を導入した。1949年,経済安定本部の企業会計制度対策調査会は,「企業会計原則」の損益計算書原則に費用収益対応原則を採用した。それ以来,日本は費用収益対応を維持してきた。しかしながら,近年,米国,日本,および世界各国で費用と収益の対応関係は弱まっている。費用と収益をどの段階の利益概念で対応させるかは,制度設計の問題である。日本は,戦後,「売上総利益」,「営業利益」,「経常利益」,および「当期純利益」というように段階的に利益を開示することによって,会計制度としての費用収益対応関係の維持を図った。公正価値会計のもとで資産と負債の価格変動リスクを加味しながら,包括利益の段階で費用と収益の対応をどのように実現するかは今日的課題である。会計学の実証研究は,会計制度の生成と変革に関する歴史的な事実を観察し,会計行動の因果関係の解明に貢献することが期待される。