2021 年 30 巻 6 号 p. 255-275
鉛直渦拡散係数の強さは海洋大循環の構造に寄与し,ひいては気候変動に影響を及ぼすことが知られている。そのため鉛直渦拡散係数の全球的な推定が求められているが,限られた航海時間で推定に用いる乱流(粘性散逸率ε)の直接観測を重点的に行うことは難しい。また,観測を行えたとしても乱流のエネルギー源となる風・潮汐・内部波の砕波・海面冷却など多岐にわたる現象を理解するとともに,膨大な量の乱流自身を特徴付けるパラメータについて理解しておく必要があるため,統一的に理解しづらいのが現状である。そこで本総説では,海洋乱流現象を解析する上で用いられる数mm から数10m に及ぶ長さスケール,無次元数の持つ意味について整理するとともに,特に船舶観測データを用いた海洋乱流エネルギー散逸率の推定方法について解説を行う。