2016 年 64 巻 12 号 p. 612-615
千葉石は,メタンなどの天然ガス分子を含む特殊な新鉱物である。しかもそれらのガス分子は副成分としてごく微量含まれるのではなく,結晶を構成する本質的成分として,重量にして一割近い量が含まれる。無機結晶中に気体分子を保持できる理由は,千葉石の主成分であるケイ素と酸素がサッカーボールのようなカゴ状の骨格構造を形成しており,そのカゴの中に気体分子が捉えられているからである。こうした物質はシリカクラスレートと呼ばれ,その構造は,次世代燃料として期待の高まる天然ガスハイドレートの結晶構造とよく似ている。従来,自然界におけるシリカクラスレートの産出は1種類のみしか知られておらず,その産出も非常に稀であると考えられてきた。しかし,千葉石の研究からは,シリカクラスレート鉱物が,全地球規模で生じている堆積岩中からの有機物の分解脱ガス過程を記録した重要な指標鉱物である可能性が見えてきた。