感染症学雑誌
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下痢原性大腸菌における付着因子保有状況とそれに基づく大腸菌検査法の一考察
小林 一寛勢戸 和子八柳 潤斉藤 志保子寺尾 通徳金子 通治芹川 俊彦倉本 早苗藤沢 倫彦鈴木 理恵子山崎 貢林 賢一松根 渉安岡 富久堀川 和美村上 光一河野 喜美子山田 亨伊藤 健一郎
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2002 年 76 巻 11 号 p. 911-920

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抄録

下痢原性の大腸菌 (Escherichia coli) の同定は腸管毒素産生性, 腸管細胞侵入性, 血清型別によって非病原性菌と区別される. しかしながら, 血清型別された菌株は下痢原性大腸菌と決定することにほとんど役立たない. 近年, 腸管上皮細胞への付着株が腸管病原性であるという多くの信頼できる論文がある.
本研究では, EHEC, ETEC, EIEC, EPEC, 非EPECに区別した下痢原性株と非下痢原性の各カテゴリーE. coliの1, 748株について付着因子の遺伝子に関係するeaeA, aggR, bfpAとEASTIのastAをPCR法によって調べた. 試験株にはいろいろな保有パターンが認められ, EHEC, EPEC, 非EPEC株の大多数はeaeAあるいはaggRを保有していた. EHECではeaeA単独保有が最も高率な型で, この型は血清型O157, O26, O111, O103, O119でみられた.EPECと非EPECはeaeAあるいはaggRastAを保有するものとしないものがみられた. ヒト由来のEPEC, 508株のうち137株 (270%) はaggRを保有し, 74株 (14.6%) はeaeAを保有していたが, ヒト以外の91株ではaggReaeAはそれぞれ2株 (22%) と11株 (12.1%) に認められた. またヒト由来の非EPEC, 266株のうち16株 (6.0%) はaggRを保有し, 58株 (21.8%) はeaeAを持っていた. 一方, ヒト以外由来の316株中22株 (7.0%) はeaeAを保有したがaggR保有株はなかった. EIEC, 13株とETEC, 218株の検査ではETECの6株だけがeaeAaggRのどちらかを持っていた. astA遺伝子は全カテゴリー株にみられ, ETECで最も多くみられた.bfpA遺伝子はヒトの下痢患者から分離した血清型O157: H45により多く認められたが, この菌株はEPEC血清型ではない.
下痢症を起こすE. coli株の識別法がないため, 多くの検査室では同定ができない. 著者らはE. coli株の付着性因子の遺伝子を検出するにはPCR法が簡単で迅速な方法であることを確認した. これらの結果からわれわれは付着性因子, 腸管毒素産生性, 侵入性に関連したPCR法を用いた鑑別法を示し, それを用いることは下痢原性E. coliの同定に合理的であり, 有用な方法であることを確信する.

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© 日本感染症学会
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