1983 年 24 巻 6 号 p. 664-668
症例は43歳男性.自覚症状はなく,昭和48年来健診で血清GOT値の異常を指摘されるも放置していた.昭和55年,血清GOT値137K.U.と高値を示し,本院に紹介された.入院時,肝は右中鎖骨線上に1.5横指触知,弾性軟,辺縁鋭,圧痛なし.他に理学的異常所見なし.検査成績上,GOT高値以外異常はなくGPT値は正常であり,ICG 15min 7%, HBs Ab陽性であった.肝シンチグラム上異常はなく,肝生検でも正常肝組織像を認めた.患者血清を電気泳動法および免疫固定法により解析したところ,GOTとIgG λ型の複合体形成が確認された.
血清中の酵素は各種臓器の炎症および壊死,酵素生成の亢進などで増加することが知られている.しかし,本例では免疫グロブリンとの結合により血中からの消失が遅延したものと考えられ,血清酵素値の異常の原因として血中からの酵素消失の速度も留意すべきであることを示唆する症例であった.