1988 年 29 巻 9 号 p. 1222-1232
門脈本幹,下大静脈に腫瘍血栓を有する肝癌は切除不能と考えられているが,これらの症例には肝動脈栓塞療法も実施不能のことが多く,また有効な化学療法もない現在,患者は短時日のうちに死亡するのが常である.
われわれはこの局面を打開するためには肝切除と共にこれらの腫瘍血栓を除去するしか道がないと考え,1979年以来8例の患者に対して肝切除または他の処置と共に腫瘍血栓の除去を行った.このような手術については二,三の症例報告があるのみで,系統的な研究は全くなされていない.われわれは先ずこのような手術が技術的に可能であることを明らかにした後,患者を長期間生存させるために種々の方策を試み,漸く1例の延命例を得た.このような手術が肝癌の治療成績を向上させることができるか否かについては,さらに検討すべき問題が多いが,治療の第一道程として,これまでの治療成績を述べると共に問題点について考察した.