[目的]アルツハイマー病(AD)の脳ではアミロイドβペプチド1-42 (Aβ)が凝集して繊維化する。このような不要なタンパク質が蓄積する原因としてアミノ酸のラセミ化によりプロテアーゼが作用しなくなることなどが考えられる。実際AD患者のAβのAspやAlaがD化されていることも知られているが、このラセミ化はイオン反応で起こるとされている。本研究ではラジカル反応によりラセミ化が迅速に起こることを示す。
[実験方法] 脳内の濃度に近い1 mMアスコルビン酸(ASC)と10 mM銅イオン(Cu)でAβに室温でラジカル反応を起こし、ラセミ化を追跡した。
[結果と考察] AβをASCとCuの存在下で反応させると、3hでD-Aspは全Aspの3.5%に有意に増加、D-Aspはその後も増加し24hで6.7%になりplateauに達した。この値はAD患者の脳不溶性画分のD-Aspの7.3%に近い値である。ASCを加えない場合はD-Aspは増加せず、同じ時間帯でイオン反応によるラセミ化はほとんど起こらないことを示している。このラセミ化はラジカル捕捉剤で有意に阻害されたのでラジカル反応によるものである。即ち、ラジカルによりα-水素が引き抜かれてラジカルになると、sp2の平面構造になり、次に水素を引き抜いて元に戻るときにラセミ化が起こると考えられる。