抄録
訪問歯科診療とは、要介護高齢者が在宅や施設で歯科診療が受けられるものです。要介
護高齢者の多くは歯科的な問題を抱えているにも関わらず、これまでの外来での歯科受診
は70 ~ 74歳をピークに、その後急速に減少する実態がありました。歯科治療をはじめと
する口腔機能の維持管理は、食べるという機能ばかりでなく、生きる力やQOLの向上に寄
与することが明らかになってきました。身近なかかりつけの歯科医などに相談し、外来受
診が困難な場合であっても治療をあきらめないことが重要です。80歳高齢者で20歯以上の
歯を保有している者の割合は約20%に過ぎず、多くの高齢者が義歯など咀嚼機能の回復が
必要とされています。そして要介護高齢者など通院や医療機関への搬送が困難な場合に行
われるのが訪問歯科診療です。
高齢者の歯科受療状況はこれまで、外来を中心に行われ、その年齢階級別歯科受療率は、
70 ~ 74歳をピークとして、その後は急速に低下するという実態がありました。一方これ
までの訪問歯科診療の実施率をみると、1ヶ月間の在宅医療実施歯科診療所は18.2%であ
り、都道府県別にみると最小11.0%(沖縄県)から最大35.7%(佐賀県)まで都道府県間に較差
がみられます。実施件数では、在宅医療サービス実施診療所1箇所当たりの訪問歯科診療
の件数は、全国平均で1ヶ月間に12.6件となっています。すなわち約20%の歯科診療所が
毎月平均12件強の訪問診療を行っているというのが現状です。この実施件数は、全要介護
高齢者を対象とした月1回の定期的管理を中心とした在宅歯科医療サービスを想定した場
合、3.6%の充足率に過ぎません。
一方で介護保険における居宅療養管理指導では、歯科医師による実施を行っている診療
所は全国平均で4.0%(最大値9.1%・最小値1.5%)、歯科衛生士による実施は2.7%(最大値8.7%・
最小値0.9%)となっています。
要介護高齢者に対する歯科訪問診療においては義歯治療が多くのニーズを占めます。訪
問歯科診療は、診療所で行う診療とは異なる点が多く、ほとんどの患者は全身的なリスク
が高く、適切な診療姿勢の確保や長時間の診療が困難な場合も多く、誤飲や誤嚥のリスク
も高くなります。さらに、口腔内環境も多くは劣悪であり、居宅もしくは施設で診療を行
うために周囲に対する配慮も必要です。
そこで、私の訪問歯科診療における義歯治療のポイントを講演するにあたり教科書的な
治療法にとらわれることなく、これまでの臨床経験やアイデアから得たポイントを織り交
ぜて解説します。