目的:様々な要因が望ましい食行動の実現に影響することから,食行動変容は容易ではない.そこで,人がどのような意思決定をしているのか理解し,健康や栄養に関心がない人も含め,望ましい行動を自発的に選択することを後押しする方法であるナッジが注目されている.本報では,食行動変容に関するナッジについて,有用性と課題について概説する.
内容:食行動変容にナッジを用いた研究のメタアナリシスでは,「利便性の強化」や「大きさを変える」といった行動レベルのナッジの方が,栄養成分表示などの認知レベルのナッジに比べて有効であった.また,メニュー名などの情報提供においては,「健康」よりも,味や見た目など「おいしさ」を表す方が,食物選択を促し,さらに食べた後の満足度が高いなど,より影響が大きいことが示されている.ただし,個人の行動変容の継続性に関しては,今後更なる研究が必要である.
結語:ナッジは,意思決定の場面で生じるバイアスを理解し,情報や選択肢の提示の仕方を変えるなど,比較的安価に行える点でも利便性は高い.健康に無関心な人の行動変容への効果も期待されている.中でもデフォルトは有効であるが,それだけでは十分ではない.より健康な選択を簡単にするナッジは,ヘルスリテラシーの向上も支援する.ナッジは万能ではないが,ナッジか教育かの二者択一ではなく,両方実施することが,「誰一人取り残さない」取組において必要である.