日本健康教育学会誌
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特集:健康教育・ヘルスプロモーションにおけるナッジの活用―研究・実践における現状と課題―
がん検診受診勧奨におけるナッジ等の行動科学の有用性
溝田 友里 山本 精一郎
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2023 年 31 巻 2 号 p. 83-92

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抄録

目的・方法:健康無関心層への対策としてナッジやソーシャルマーケティング等の行動科学の活用が推奨されている.筆者らはがん検診受診率向上を目的に,ナッジやソーシャルマーケティングを使ったがん検診受診勧奨のための資材を作成した.

結果:作成した資材は2015年から2018年の間に787市町村から430万人に送付された.データが得られた167市町村について前年度との比較による効果検証を行ったところ,141市町村(83%)で受診率が上昇し,全体として受診率が2.6%上昇し,1.44倍となっていた.ナッジを応用したさらなる受診勧奨として,PRやメディアを戦略的に活用し,乳がん検診をテーマにしたテレビ番組の放送に合わせて,市町村から個人にはがきを送付するキャンペーンを行ったところ,放送後3か月間で前年同月比1.5~7.6倍の受診率向上効果が認められた.さらに放送後,他のテレビや雑誌,SNS等に受診の呼びかけが広がった.翌年は同様の方法で大腸がん検診の精密検査の受診勧奨も行った.

結論:本研究によりナッジ等の行動科学的アプローチが,がん検診受診の行動変容に有効であることを示すことができた.全国的キャンペーンの実施にはメディアや全国市町村との地道な関係構築が必須であるため手間と時間がかかるが,都道府県単位で実施すれば,実行可能性と効果が高まることが期待できる.

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