日本健康医学会雑誌
Online ISSN : 2423-9828
Print ISSN : 1343-0025
原著
能登半島地震11年経過後の高齢被災者の精神的健康状態と生活機能に関する実態調査
髙橋 純子服部 託夢
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2020 年 29 巻 2 号 p. 179-191

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抄録

災害の長期的な影響を明らかにするため,能登半島地震から11年経過した輪島市の高齢者を対象に,改訂出来事インパクト尺度(Impact of Event Scale-Revised : IES-R),日本語版 Ten Item Personality Inventory (TIPI-J),精神的回復力尺度(Adolescent Resilience Scale:ARS),生活不活発病チェックリストを用いて,精神的健康状態や生活機能について調査した。その結果,① 同居家族がいない高齢者は,同居家族がいる高齢者に比べてIES-R合計得点およびすべての構成下位尺度で有意に高い値を示した。また,不活発でない対象者においても,同居家族がいない場合は,IES-R合計得点および構成下位尺度の「回避症状」,「過覚醒症状」が有意に高い値を示した。②IES-Rにおいて24点以下であり,勤勉性が高い性格傾向の対象者で相談ごとができる相手がいない場合は,PTSDなどの精神症状を発症するリスクがある。③ 発災当時,全壊や大規模半壊など大きく住居の損壊を受けた高齢者は,IES-R合計得点および下位尺度項目の「侵入症状」が有意に高値を示した。また,仮設住宅への入居の経験のある高齢者は,IES-R合計得点および下位尺度項目の「侵入症状」が有意に高値を示した。④ 生活不活発病とIES-Rとの間に相関関係があり,精神症状と,日常生活動作・行動の縮小は互いに影響することが示唆された。

本調査により,被災から11年経過する今も精神症状に悩まされる高齢者がいることが明らかになった。とくに「高齢」,「独居」,「住居の損壊」,「相談相手がいない」の要因がある者は,平時からの限られた地域ネットワーク内での共助のあり方を検討していく必要がある。また,発災後は行政や自治体,医療機関,福祉との連携により,早期支援および継続的な支援を実施していく必要性がある。

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