抄録
【目的】
近年、自らの行為の時も他者の行為を観察している時にも活性化するミラーニューロン(MN)が発見され、最近では高次脳機能障害者の模倣学習等の臨床応用研究も開始されている。MNは、運動前野腹側部(ブローカ野を含む)、頭頂葉PF野(下頭頂溝周囲)、側頭葉STS野(上側頭溝、上側頭回)で発見され、総称してミラーニューロンシステム(MNS)と呼ばれている。Rizzolattiらは、このMNSを他者行為の視覚的表象と自己の行為の表象とをマッチングするdirect matching systemであると提案し、他者行為の認識に重要な神経システムであると主張している。Galleseらは、Rizzolattiらの仮説を発展させ、MNSは他者行為の知覚だけでなく、他者の意図を推測する役割があるのではないかと考えている。そこで今回の研究では、単純な運動観察をする場合とその運動観察に相手の意図を読み取るという認知的な要求を与えた場合では、MNSの活動に差異が認められるかを、脳イメージング装置を使用して明らかにする。
【方法】
本研究に際して同意を得た健常成人6名(男性4名、女性2名)が実験に参加した。脳イメージング装置は、functional near-infrared spectroscopy FOIRE3000(fNIRS:島津製作所)を使用し、安静時、単純な運動観察を行った場合(上段・中段・下段に置かれたリンゴへの到達把握運動の観察:課題1)、同じ運動観察で相手の意図を読み取る場合(上段・中段・下段のどこに到達把握運動が行われるのか運動が達成される前に読み取る:課題2)の酸素化ヘモグロビン値(oxy Hb)の変化を抽出し比較した。課題はそれぞれ3回施行した。マッピングおよびMRI画像への重ね合わせにはFUSION(島津製作所)を用い位置の推定を行った。
【結果】
安静時と比較して、6名中3名が課題2においてMNSに相当する部位(ブローカ野およびSTS野周辺)のoxy Hbの増加傾向がみられた。残りの3名は安静時、課題1、課題2でそれらの領域のoxy HBに変化が認められなかった。
【考察とまとめ】
今回の研究では6名中3名が課題2において、安静時と比較してMNSに相当する部位のoxy Hbの増加傾向がみられた。これにより相手の意図を推定する場合にMNSがより活性化する事が示唆された。一方、残りの3名ではその変化は認められなかった。これはミラーニューロン自体が行為の観察そのものよりも行為の表象に反応していることから、観察者の注視活動が目的物および運動軌道に対して予測的に働いていなかったことが考えられる。この結果は同一に言語誘導したとしても、参加者によっては予期が発動していないことが考えられ、個人が何に注意を向けているかを臨床評価では知ることが重要であることが示唆された。今後、対象数を増やし、課題設定を含めより詳細な検討を行う必要がある。