抄録
【目的】近年、腰椎疾患における体幹筋収縮反応速度の遅れ1)や体幹筋持久力低下2)が報告され、その結果生じる立位バランス障害が腰痛の一因になっていると考えられる。以前、我々は腰椎疾患術前後の立位バランス障害の有無を立位重心動揺性にて検討し、その結果術後に重心動揺性が増大することを報告した。今回腰椎疾患術後に対し神経筋協調性練習を行い、その効果を明らかにするため調査したので、ここに若干の考察を加え報告する。
【対象】腰椎疾患にて手術を受けた12名をA群とB群に無作為分け、A群6名(平均年齢69.0歳 脊柱管狭窄症3名、腰椎椎間板ヘルニア1名、すべり症2名)、B群6名(平均年齢65.2歳 脊柱管狭窄症4名、腰椎椎間板ヘルニア1名、すべり症1名)を対象とした。
【方法】A群は術後、体幹筋筋力訓練、ストレッチング、歩行訓練などを中心とした従来の運動療法を行った。B群はA群の訓練内容に加え、不安定板やセラピーボール、継足歩行等を用いた神経筋協調性練習を毎日10分間施行した。両群に手術前と退院前(術後平均在院日数A群25.5日、B群25.5日)に評価を行った。立位重心動揺性は、酒井医療株式会社製アクティブバランサーEAB-100を用い、裸足、静止自然立位で30秒間とした。また視覚による代償をなくすため閉眼で測定した。日整会腰痛疾患治療成績判定基準(以下JOAスコア)は29点満点で評価した。結果はT検定にて統計処理をした。
【結果】静止立位閉眼総軌跡長(術前平均→退院前平均)はA群1096.3mm→1236.0mm、B群883.5mm→1035.7mmであり、両群とも術前と比較し退院前の閉眼総軌跡長は増大した。また両群間の増大率に有意差は認められなかった。JOAスコアはA群15.0→20.7、B群15.5→23.0と有意に改善(P<0.01)を示したが、両群間の改善率には有意差を認めなかった。
【考察】前回報告した研究結果と同様、腰椎疾患患者の術前重心動揺性は、今岡ら3)による同年代の健常者平均値と比較し増大しており、術後さらに増大することが再確認された。神経筋協調性練習は外力や状況変化に即座に対応させる訓練4)であり、静的重心動揺距離を減少させる5)と報告されている。術後の重心動揺性増大に対し神経筋協調性練習を取り入れたが、全ての両群間比較の結果において有意差は認められなかった。神経筋協調性練習を取り入れることは動的な重心動揺の改善に有用6)であること、また静的バランスより動的バランスの方が大きく改善する5)ことから、本研究の評価指標が静止立位の重心動揺であったため有意差が認められなかったと考えられた。
今後、動的な重心動揺性も合わせて評価し、障害部位や術式による検討も行っていく必要がある。また効果的な神経筋協調性練習の頻度・強度についても検討していきたい。