抄録
【目的】2008年度よりメタボリックシンドローム(MS)の予防・改善のため,40歳から74歳までの中高年者を対象とした特定健診・保健指導が始まった.このような予防医療において医学的知識を基盤とした身体機能評価,運動指導の専門家である理学療法士は職能を活かすことができると考えられる.我々は今年度から,特定保健指導プログラムを開始することになった.そこで,本研究の目的は特定健診対象者における動脈硬化関連指数と身体組成,身体機能,運動定着との関連性を調査し,MS予防・改善に向けての効果的な介入方法を検討することである.
【方法】奈良県内の特定健診対象者で,測定項目に欠損値がない80名(男性24名,女性56名:平均年齢61.6±7.7歳)を対象とした.対象者には十分な説明を行い,同意を得た.本研究は畿央大学研究倫理委員会の承認を得て実施した.評価項目として,身体組成については身長,体重,BMI,腹囲に加え,脂肪量,筋肉量を測定し,身長比を算出した.身体機能は,握力,足指筋力を測定し,等尺性膝伸展筋力は体重比を算出した.動脈硬化関連指数は血圧脈波検査装置(VaSera VS-1000,フクダ電子社製)を用い,Cardio-Ankle Vascular Index(CAVI),Ankle-Brachial Index(ABI)を測定した。筋力項目とCAVI,ABIは左右の平均値を採用した.さらに,運動習慣をTranstheoretical model(TTM)によりアンケート調査した.統計解析はCAVI,ABIと各項目との関連性をSpearmanの相関係数を用い,さらにTTMの維持期を運動定着群(定着群),実行期・準備期・関心期・無関心期を運動未定着群(未定着群)として2群に分け,同様に分析した.
【結果】定着群は37名(男性14名,女性23名),未定着群は43名(男性12名,女性31名)であった.全体でCAVIは年齢(ρ=0.50)のみ有意な相関が認められた(p<0.01).ABIでは,性別,BMI(ρ=0.28),筋肉量身長比(ρ=0.41,p<0.01),握力(ρ=0.27),足指筋力(ρ=0.23)であった(p<0.05).また,定着群において,CAVIで年齢(ρ=0.44,p<0.01),ABIでは,筋肉量身長比(ρ=0.36),握力(ρ=0.34)で相関がみられた(p<0.05).しかし,未定着群では,CAVIは,年齢(ρ=0.53,p<0.01)以外に,握力(ρ=-0.32),足指筋力(ρ=-0.34),膝伸展筋力(ρ=-0.38)で負の相関が認められた(p<0.05).ABIでは,性別,筋肉量身長比(ρ=0.45),で有意な相関がみられた(p<0.01).どの群においても,腹囲,脂肪量との関連性は認められなかった.
【考察】今回の結果から,CAVIはどの群においても年齢との関連性が高く,ABIにおいては性別,筋肉量,筋力と関連性があることが明らかとなった.しかし,未定着群では,CAVIにおいて筋力項目との負の相関が認められ,腹囲,脂肪量とは認められなかったことから,特に未定着群に対して脂肪量減少よりも筋肉量増加,筋力向上への介入が動脈硬化予防,改善につながる可能性が示唆された.