抄録
【はじめに】
脳血管障害片麻痺患者において体幹筋群の筋緊張異常により長座位でのいざり動作が困難となっている症例を多く認める。このような症例に、長座位にて一側殿部へ体重移動を促すとともに、反対側の殿部を挙上させながらいざり動作練習を実施することがある。この時体重移動側(以下移動側)の体幹筋群は遠心性の活動を、また反対側の体幹筋群には求心性の活動を促すよう配慮を行っているが、その明確な指標となる筋電図学的検討についての報告は少ない。そこで今回、長座位での側方体重移動が両側腹斜筋群・腰背筋群の筋電図積分値に与える影響について検討し、若干の知見を得たので報告する。
【対象と方法】
対象は健常男性7名とし、本研究の目的・方法を充分に説明し了解を得た。開始肢位は被検者に両上肢を胸の前で交差させた長座位とし、両殿部下に2台の体重計を配置した。この時殿裂を2台の体重計の中心上に位置させ、各体重計の数値を合計し総殿部荷重量とした。まず開始肢位での両側腹斜筋群・腰背筋群の筋電図積分値を筋電計ニューロパック(日本光電社製)にて測定した。測定時間は5秒間、測定回数は3回とし、その平均値をもって個人データとした。次に一側の殿部へ体重移動による殿部荷重量(以下、荷重量)を総殿部荷重量の60%、70%、80%、90%、95%へとランダムに変化させ、上記と同様に各筋の筋電図積分値を測定した。この時頭部は正中位とし、両側肩峰を結ぶ線が水平位となるよう規定し、体幹・骨盤の回旋が生じないよう確認した。また両踵は離床しないようにした。そして開始肢位での各筋の筋電図積分値を1とした筋電図積分値相対値をそれぞれ求め、長座位での側方体重移動が両側腹斜筋群・腰背筋群の筋電図積分値に与える影響について検討した。統計処理には一元配置の分散分析とTukeyの多重比較を用いた。
【結果と考察】
腹斜筋群の筋電図積分値相対値について、移動側は荷重量の増大に伴い若干の増加傾向を認め、反対側は荷重量の増大に伴い有意な増加を認めた。また、腰背筋群の筋電図積分値相対値について、移動側は荷重量の増大に対し変化を認めず、反対側は荷重量の増大に伴い有意な増加を認めた。荷重量の増大に伴い移動側腹斜筋群の筋電図積分値相対値が若干の増加傾向を認めたことに関して、本課題では荷重量の増大に伴い、骨盤が後傾しようとすることで、移動側の骨盤・体幹が後方へ傾斜しようとする働きが生じると考えられる。これに対し移動側の腹斜筋群がその肢位保持に関与したと考える。また荷重量の増大に伴い反対側の腹斜筋群・腰背筋群の筋電図積分値相対値に有意な増加を認めたことについて、渡邊らは座位での側方への体重移動時において、反対側の腹斜筋群・腰背筋群は、骨盤の側方傾斜に伴い反対側の骨盤と体幹を連結させ肢位を保持するために関与すると報告している。このことから本研究においても荷重量の増大に伴い反対側の腹斜筋群・腰背筋群は、骨盤と体幹を連結させ、その肢位保持に関与したと考えられる。