抄録
【目的】糖尿病療養指導では、行動変化ステージを利用した介入方法が推奨され、当院でも運動療法指導の一助として、行動変化ステージを確認してきた。さらに、リスク管理と運動療法への動機づけを目的とし、運動療法実施前後に血糖自己測定(以下、SMBG)を行ってきた。今回、我々は運動習慣と運動療法実施前後の血糖値変化について検討した。
【対象】平成21年3月から、当院に糖尿病教育入院し、運動療法適応となった2型糖尿病患者12名(男性7名、女性5名)を対象とした。糖尿病罹患期間11.3±8.4年(平均値±標準偏差)、HbA1c9.0±2.5%、BMI27.2±7.8kg/_m2_、経口血糖降下薬服用者5名、インスリン使用者7名。全例、運動の制限となる合併症は認められなかった。<BR>
【方法】行動変化ステージの前熟考期・熟考期・準備期を運動習慣なし(以下、non-ex群)、行動期・維持期を運動習慣あり(以下、ex群)の2群に分類した。実施した運動内容は、軽負荷の体操と30分以内の有酸素運動で、実施時間は昼食後13時から開始した。理学療法士の監視下にて実施した。有酸素運動時の目標心拍数はKarvonen法に基づいて算定した。運動療法実施前後にグルテストエースRを使用し、SMBGを実施した。4日間の運動前後の血糖値、並びに血糖変化率を測定した。統計学的解析にはt検定を用いた。<BR>
【結果】血糖値の変動は、ex群(4例)で運動前173±36mg/dlから運動後146±39mg/dlで、平均血糖変化率は3.9±6.5%であった。non-ex群(8例)では運動前167±38mg/dl、運動後127±31mg/dl、平均血糖変化率は29.0±11.3%とnon-ex群の平均血糖変化率が大きかった(p<0.05)。なお2群間の罹患期間、空腹時血糖、HbA1c、BMI 、HOMA-Rに有意差は認められなかった。<BR>
【考察】運動療法前後の血糖変化率は、ex群に比べnon-ex群で有意に大きかった。今回の結果から運動習慣の有無が運動の急性効果としての血糖値変動に影響を与えることが判明した。従って、臨床上non-ex群の運動の重要性が示唆された。さらに、運動療法後の急性効果による血糖値低下は、効果を自覚しやすく、運動療法の動機付けの一つとしても有効と考えられた。