近畿理学療法学術大会
第50回近畿理学療法学術大会
セッションID: 93
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スリングを用いた反復的振動刺激が筋力と筋活動に及ぼす影響
*北裏 真己岩城 隆久松井 有史福井 直樹渕上 健河口 紗織越本 浩章
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抄録
【目的】  近年,リハビリテーションにおいて振動刺激が注目されている.振動刺激には,全身振動刺激(Whole Body Vibration:WBV)と反復的筋振動刺激(repetitively Muscle Vibration:rMV)があり,共に柔軟性や筋力増強に対する効果が報告されている.先行研究では,WBVは立位で実施することがほとんどで,腰痛や関節痛,循環器障害等に対しては症状を悪化させる可能性があるとして,適応が限定されている.一方,rMVは,主に座位および背臥位で実施し,選択的に筋を振動刺激するためリスクが少ないと言われている.また,WBVと比較して高頻度の振動刺激が可能であり,筋紡錘の一次終末興奮性増大による筋力増強効果が期待できる.  以上より,rMVは医学的管理のため,身体運動が制限された患者に対するアプローチとして有効であること考えられるが,先行研究では,座位での実施や振動刺激中に運動努力を要することが多い.よって,本研究では,背臥位を介入肢位と設定し,スリングを用いた振動刺激が筋力と筋活動に及ぼす影響を明らかにすることとした. 【方法】  下肢に整形外科的疾患の既往のない健常成人8名(男3名,女5名,平均年齢25.4±2.5歳)を対象とした.参加者は,Red Cordスリング(Red Cord社)を使用して背臥位,股関節屈曲45°,下腿は地面に対して水平位となるよう設定し,膝関節周囲部に対してrMVを実施した.rMVにはStimula(Red Cord社)を用い,刺激振動数を55Hzに設定し,9分間実施した.測定は介入前後に行い,評価項目は膝屈曲筋力,膝伸展筋力とし,あわせて表面筋電図を用いて記録した.  筋力測定には,PRIMS RS®(BTE Technologies社)を使用した.端座位で等尺性膝屈曲・伸展時トルクを5回測定し,1回目と5回目を除いた中間3回の平均値を求めた.体重で除した値を最大トルク体重比とし,rMV前後で比較した.  表面筋電図は,DAB measuring system(Zebris社)を用いてパーソナルコンピュータにサンプリング周波数1000Hzにて取り込んだ.電極は銀・塩化銀型ディスポザーブル電極(Noraxon社)を用いた.導出方法は双極導出法とした.測定筋は大腿直筋,大腿二頭筋とした.筋電図波形の解析はマイオリサーチ(Myoresearch XP 1.07.01,Noraxon社)を用いた.なお,周波数帯域は10~500Hzとした.筋力測定で5回測定した中から,中間3回の筋電図波形を平均したものを採用した.100%MVC法を用いて正規化し,rMV前後の筋積分値を比較した.統計学的分析は,対応のあるt検定を実施し,有意水準は5%未満とした. 【説明と同意】  参加者全員に口頭および紙面で研究内容を説明し,同意を得た. 【結果】  介入前後において,最大トルク体重比は膝屈曲筋において有意な増加を示した(P=.045)が,膝伸展筋は有意な差は認められなかった(P=.329).また,筋積分値では,大腿直筋と大腿二頭筋で有意な変化は認められなかった(P=.108,P=.453). 【考察】  介入後に,膝屈曲筋力の最大トルク体重比が有意に増加していた.これは,先行研究と同様の結果であり,振動刺激が筋力増強に有効であることが示唆された.しかし,筋積分値では大腿二頭筋に有意な変化がなかったことから,振動刺激により,活動運動単位の動員数と発火頻度の同期性が向上したのではないかと推察している.また,Filippiら(2009)のRCTでは,100Hzの振動刺激を用い筋力増強効果を認めていることから,今後は,サンプルサイズの拡大とともに,刺激振動数の相異が筋力増強効果に与える影響を調査していきたい. 【理学療法研究としての意義】  スリングを用いたrMVは,背臥位で実施でき,自重免荷が可能であるため,安全である.よって,手術直後や長期臥床により身体運動が制限された患者への有用性が高く,動作獲得や退院を早期化させる可能性がある.
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© 2010 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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