近畿理学療法学術大会
第51回近畿理学療法学術大会
セッションID: 106
会議情報

人工股関節置換術後早期における歩行効率は垂直方向への重心移動から予測できる
*南角 学秋山 治彦柿木 良介
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【はじめに】人工股関節置換術(以下,THA)において,股関節機能の回復が十分に得られない術後早期には術側への重心移動が不十分な症例や,手術による脚延長の影響で歩行中の術側と非術側立脚期の高さが非対称となる症例を臨床場面で経験する.THA術後早期で重心移動パターンが非対称な症例では,効率的な重心移動での歩行が行われていないと考えられる.しかし,THA術後患者の歩行中の重心移動幅や重心移動パターンと歩行効率の関連性について検討した報告は見当たらず不明な点が多い.さらに,THA術後の歩行に関しては術後数ヶ月を経過した報告が多く,術後早期の歩行を評価した報告は少ない.本研究の目的は,THA術後早期における重心移動パターンと歩行効率の関連性を検討することである. 【方法】片側変形性股関節症によりTHA術後 4週が経過した女性18名(年齢47.7±10.0歳,BMI20.1±2.1kg/m2:以下,THA群)と健常女性18名(年齢47.4±15.3歳,BMI20.8±1.9kg/m2:以下,健常群)を対象とした.THA群の術後の脚長差は股関節正面のレントゲン画像から1cm以内,術側の股関節周囲筋の筋力は徒手筋力テストでpoorであった.測定には2基の床反力計(Bertec社製,9090S型)と3次元動作解析装置(住友金属社製,GATAL-ITS-60型)を用いた.対象者に反射マーカーを貼り付け,自由速度で杖を用いない歩行を行わせた.床反力2回積分法により,側方・前後・垂直方向への最大重心移動幅を求め,3平面上での重心移動パターンのリサージュ波形を描いた.さらにTHA群に関しては,重心移動パターンの非対称性の指標として,術側と非術側の立脚期での最大重心位置を求めこれらの差を算出した.また,歩行効率の指標として,一歩行周期及び体重1kg・進行距離1m当りの重心の仕事量(以下,WE-1)を算出した.床反力計への接地とマーカー追跡が良好であった3データを分析対象とし,統計処理には両群間の各測定項目の比較には対応のないt検定を用いた.THA群のWE-1と各測定項目との関連性にはピアソンの相関係数を用い,さらにWE-1を目的変数,WE-1と関連性を認めた項目を説明変数としたstepwise重回帰分析を行い,統計学的有意基準は5%未満とした. 【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,各対象者には本研究の趣旨ならびに目的を詳細に説明し,研究への参加に対する同意を得た. 【結果と考察】側方と垂直方向への重心移動幅に関しては両群間で有意な差は認めなかったが,前後方向への重心移動幅はTHA群が健常群と比較して有意に大きい値を示した.また,THA群の垂直方向の重心移動パターンに関しては,術側の立脚期の重心位置は非術側よりも高く(その差は1.47±0.79cm),全ての症例で非対称性なパターンを示した.WE-1に関しては,THA群0.84±0.18(J/kg/m),健常群0.71±0.12(J/kg/m)であり,THA群は健常群より15.5%大きい値を示した.これは身体の前進にそれだけ多くの仕事を要したことを意味し,THA群では歩行効率の低下を示した.さらに,THA群のWE-1の値は,側方方向の最大重心移動幅(r=0.49)と垂直方向の最大重心移動幅(r=0.81)と垂直方向への重心移動パターンの非対称性の大きさ(r=0.83)と有意な相関関係を認めた.さらにstepwise重回帰分析の結果から,WE-1の値を決定する因子として,垂直方向の最大重心移動幅(偏回帰係数:0.084,p<0.01),と垂直方向への重心移動パターンの非対称性の大きさ(偏回帰係数:0.105,p<0.01)の2つの項目が抽出され,この回帰式の修正済決定係数はR2=0.81であった.一般に,歩行中では最も重心位置が高くなる立脚中期の位置エネルギーと最も重心の速度が速くなる両側支持期の運動エネルギーが円滑に変換されることで効率的な歩行が可能となる.本研究の結果より,THA術後早期において垂直方向への重心移動幅と重心移動パターンの非対称の大きい症例では,歩行中の運動エネルギーと位置エネルギーの変換が円滑に行えないために歩行効率の低下を招いたと考えられた. 【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,THA術後患者の歩行中における垂直方向への重心移動幅と重心移動パターンの非対称性を観察することで歩行効率を評価できることを示唆しており,理学療法学研究として意義のあるものと考えられた.
著者関連情報
© 2011 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
前の記事 次の記事
feedback
Top