近畿理学療法学術大会
第51回近畿理学療法学術大会
セッションID: 40
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立ち上がり可能な高さと日常生活活動の関連性について
*吉川 義之鈴木 昌幸松田 一浩高尾 篤福林 秀幸竹内 真加納 和佳梶田 博之杉元 雅晴
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キーワード: 立ち上がり, ADL, 高さ
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抄録
【目的】 これまで立ち上がり動作とADLについての報告はなされているが,多くが一定の時間内の立ち上がり回数との関連であり,高さについての検討は散見される程度である.在宅生活を行う高齢者の立ち上がり動作は,高さが一定ではなくさまざまな高さからの立ち上がりが必要である.しかし,基本動作における立ち上がり項目に高さの設定はなく,多くはプラットホーム型ベッドや椅子からの立ち上がり動作が自立しているかのみの記載である.また,立ち上がり動作は立位になるための動作である.そのため,精一杯の力で立ち上がり動作を行っても日常生活を遂行することはできないため,予備能力が必要であると考えられる.そこで本研究では,高齢者の立ち上がり可能な高さと日常生活活動(以下,ADL)の関連性を検討することを目的とした. 【方法】 対象は当院併設の通所リハビリテーション利用者のうち支持物なしでの立位保持が可能な者とした.除外基準としては,改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)が20点以下の者,股・膝関節に重度の可動域制限を有する者,重度の運動失調,高次脳機能障害を有する者とした.その結果,最終的な対象者は50名(平均年齢78.6±6.4歳,男性18名,女性32名)となった. 測定項目は,立ち上がり可能な高さの測定,Timed “Up & Go” Test(TUG),Modified - Functional Reach Test(FR),片脚立位時間,膝伸展筋力,Barthel Index(BI)の6項目とした.立ち上がり可能な高さの測定は,1cm毎に測定した.方法は,30cm台からはじめ,可能であれば高さを減らす,不可能であれば高さを増やす方法で1回立ち上がれる高さを測定した.立ち上がり動作に関しては,1回成功した高さの1cm低い高さから測定の次の利用日にも立ち上がりを行ってもらい2日間続けて可能であった高さを測定値とした. 立ち上がり動作の測定姿勢は,胸の前で上肢を組み,下肢は両足部を肩幅程度に開いた状態とした. 統計学的検討については,それぞれの検査との相関をspearmanの順位相関係数を用いて検討した.また,BIのうち排尿,排便コントロールの2項目を除いた合計80点で,満点の利用者を自立群と減点項目がある利用者を非自立群として2群に分けた.その後,検定変数に立ち上がり可能な高さおよびその他の測定項目,状態変数に自立群と非自立群を投入したReceiver Operating Characteristic(以下,ROC)曲線を用いてカットオフ値を求めた. 【説明と同意】 本研究を実施するにあたり,研究目的および方法を書面と口頭により説明し,書面による同意を得て実施した. 【結果】 BIとの相関について有意であった項目は,立ち上がり可能な高さ(ρ= -0.66),TUG(ρ= -0.55),片脚立位時間(ρ= -0.53),FR(ρ= 0.36),膝伸展筋力(ρ= 0.35)であった.ROC曲線の曲線下面積の有意な項目は,立ち上がり可能な高さ(0.87),TUG(0.80),片脚立位時間(0.82)であった.カットオフ値は,立ち上がり可能な高さが30.5cm(感度78% ,特異度81%),TUGが13.8秒(感度83% ,特異度78%),片脚立位時間が2.6秒(感度78% ,特異度83%)であった. 【考察】 高齢者の在宅生活において立ち上がりの高さは一定ではなく,トイレの高さが38~43cm,シャワーチェアーは20~40cmなどさまざまである.しかし,リハビリテーション室にあるプラットホーム型ベッドの多くは約40cm,使用している椅子は約40~45cmであり,立ち上がり動作練習もプラットホーム型ベッドや椅子を使用して行っていることが多い.在宅生活とリハビリテーション室での高さの相違は課題であると考えられる.そこで,本研究では高齢者のADLと立ち上がり可能な高さの関連性を検討した.すると,立ち上がり可能な高さとBIには有意な相関がみられ(ρ= -0.66),カットオフ値は30.5cm(感度78% ,特異度81%)であった.この結果から,30cmからの立ち上がりが可能な高齢者の多くは日常生活に必要なバランス能力や筋力を有していると考えられ,介助を必要としない高齢者が多かった.今回は横断的な研究であるため,強く言及することはできないが,理学療法を実施するにあたり30cmからの立ち上がりをひとつの基準にすることが可能であると考えられる.今後は地域在住高齢者以外の急性期や回復期の退院時ADLとの検討が必要であると考えられる. 【理学療法研究としての意義】 ADLの自立度と立ち上がり可能な高さには相関があり,本研究における自立群と非自立群を分けるカットオフ値は30.5cmであった.このことより,30cmからの立ち上がりが可能な高齢者は,日常生活を介助なしに生活できるだけの身体機能を有していると考えられ,この動作の可否がADLを自立して行えるかどうかの一つの基準となり得る可能性が示唆された.
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© 2011 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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