抄録
【目的】腰椎後方固定術後の患者は、骨癒合が得られていない時期では下位腰椎の屈曲運動が禁忌となる。我々は臨床において腰椎後方固定術後に体幹装具を装着している時期の患者に靴下着脱動作(以下着脱動作)を指導する事がある。ある症例は靴下着脱の為、一側下肢を対側下肢に組もうと試みるが、下肢挙上時に体幹伸展・後方回旋を認め、動作の遂行が困難であった。この機能障害として胸背筋の筋緊張亢進や腹斜筋群の筋緊張低下が挙げられた。治療では上部体幹の屈曲を誘導する事で胸背筋の筋緊張亢進の減弱と腹斜筋群の筋緊張の促通を図り、軽度挙上した下肢への上肢リーチ練習を実施した。結果着脱動作が可能となり、ニーズに応える事ができた。以上の経験から上記のような治療場面にて指標となる体幹筋群の活動を明確にする目的で、先行研究では健常者を対象に端座位一側下肢挙上位での体幹屈曲課題が一側下肢挙上側(以下挙上側)における内・外腹斜筋単独部位と胸腸肋筋の筋電図積分値に及ぼす影響について検討した。今回、同課題にて挙上側に対する反対側(以下非挙上側)の各筋において検討をしたので報告する。
【方法】対象は健常男性9名、平均年齢29.11±7.03歳とした。被験者に端座位を保持させ、両上肢を胸の前で組ませ、体幹直立位、股・膝関節屈曲90°位にて大腿後面中央に座面端が位置する端座位を開始肢位とした。そして非挙上側の内・外腹斜筋単独部位と胸腸肋筋の筋電図を筋電計ニューロパック(日本光電)にて5秒間、3回測定し各筋の筋電図積分値の平均値を求めた。次に一側下肢を股関外旋と共に軽度挙上させ、その踵部を反対側下肢の下腿遠位1/3の位置に沿わせて保持させた。この時挙上側股関節は内外転0°位とし、両肩峰を結んだ線は水平位、さらに体幹側屈・回旋、骨盤後傾・回旋が生じないよう規定した。そしてこの肢位を体幹屈曲0°位とし、さらに上部体幹より屈曲する事を指示(今回は体幹装具を装着している患者を想定した模擬課題である為)し体幹屈曲角度を10°・20°・30°位と変化させ、各課題における各筋の筋電図を測定した。そして開始肢位における各筋の筋電図積分値を1とした筋電図積分値相対値(以下相対値)を求め、一元配置の分散分析とTukeyの多重比較を用いて検討した。
【説明と同意】本研究ではヘルシンキ宣言を鑑み、予め説明された本研究の概要と侵襲、公表の有無と形式について同意を得た被験者を対象とした。
【結果】非挙上側外腹斜筋・胸腸肋筋の相対値は体幹屈曲角度の増大に伴って僅かな増加傾向を示し、非挙上側内腹斜筋の相対値は体幹屈曲角度の増大に伴い増加傾向を示した。
【考察】各課題での一側下肢の挙上位保持に伴い、体幹には挙上側回旋、骨盤には後傾・挙上側回旋方向への働きが生じると考えられる。先行研究では、挙上側外腹斜筋は体幹の挙上側回旋に対する制動作用としての関与と、体幹屈曲角度の増大に伴い相対値に増加傾向を認め体幹屈曲作用としての関与を示唆した。今回の結果から非挙上側外腹斜筋は挙上側と共に体幹屈曲作用にて関与したと考えるが、非挙上側外腹斜筋の積極的な活動は体幹の挙上側回旋や非挙上側側屈を伴う恐れがある為、僅かな増加傾向であったと考える。さらに先行研究では挙上側内腹斜筋(骨盤内の横方向線維)は骨盤の後傾・挙上側回旋に対する制動作用としての関与を示唆した。今回の非挙上側内腹斜筋の相対値の増加傾向も、挙上側と共に同作用にて関与したと考える。また先行研究では挙上側胸腸肋筋の相対値は体幹屈曲角度の増大に伴い増加傾向を認め、体幹の屈曲方向への働きに対する制動作用と報告した。今回の非挙上側胸腸肋筋についても同作用にて挙上側と共に関与したと考えるが、積極的な活動は体幹の非挙上側側屈を伴う恐れがある為、僅かな増加傾向であったと考える。
【理学療法研究としての意義】腰椎後方固定術後の患者は着脱動作時に腰椎屈曲・側屈・回旋に注意し上部体幹を屈曲させ、軽度挙上した下肢に対する上肢リーチ動作を行う必要があり、先行研究と本研究を踏まえると以下の配慮が必要になる。1)挙上側外腹斜筋の体幹挙上側回旋方向への働きに対する制動作用と両側外腹斜筋による体幹屈曲作用を促すが、非挙上側外腹斜筋の過活動に伴う体幹挙上側回旋・非挙上側側屈が生じないようにする必要がある。2)両側内腹斜筋の骨盤後傾・挙上側回旋方向への働きに対する制動作用を促す必要がある。3)両側胸腸肋筋の体幹の屈曲方向への働きに対する制動作用を促すが、非挙上側胸腸肋筋の過活動による体幹非挙上側側屈が生じないようにする必要がある。本研究より腰椎後方固定術後患者の着脱動作時には挙上側、非挙上側内・外腹斜筋と胸腸肋筋を評価し、上記配慮のなかで各筋の活動を求める必要があると考える。