2023 年 71 巻 1 号 p. 17-22
本稿では,月面などの異重力環境下での運動技能上達効率について,我々のこれまでのヒトと金魚を用いた実験結果に基づき,神経科学の視点から考察する.また,身体運動制御における重要な要素に「空間識形成」と「予測」があるが,地球上と異なる重力環境がこれらの能力獲得に与える影響についても考察する.さらに,空間識形成に重要な基準軸を与える重力ベクトルの推定は,前庭覚や視覚の他,体性感覚,聴覚等の異種感覚情報統合により実現されることから,これらの感覚情報や情報統合過程を人為的に操作することにより,重力知覚を所望の状態に制御できる可能性があることを指摘する.こうした技術は,地球上にいながらメタバース空間内で,あるいは月や火星上において,異なる重力知覚を得ることによって我々の空間識を拡張し,新たなヒューマンネイチャー創発につながるものと期待できる.