2025 年 73 巻 4 号 p. 106-112
NASAの支援のもとでジョンスホプキンス大学応用物理研究所(Johns Hopkins University/Applied Physics Laboratory-JHU/APL)が主導して開発したDouble Asteroid Redirect Test(DART)は,人類初のフルスケールのキネティックディフレクション(探査機衝突による小惑星の進路修正)を行うよう設計されたプラネタリーディフェンスミッションである.このミッションでは,探査機を対象天体である連星小惑星Didymosの副天体Dimorphosに衝突させて,この副天体の主天体に対する相対軌道の変化を測ることで,運動量移送を定量化する.世界標準時間2021年11月24日6時21分,探査機はスペースXのファルコン9ロケットを利用して打ち上げられた.そして,世界標準時間2022年9月26日23時14分にDimorphosに衝突した.この衝突によって,DimorphosのDidymosの相対軌道周期が約33分短縮された.対象天体の平均密度が2.4 g/cm3である場合,ベータ値(プラネタリーディフェンスの定量パラメータ)が3.61であるということが決定された.また,LICIACubeや地球望遠鏡を用いた観測によって,衝突によって飛び出したイジェクタの時間進化を垣間見ることができた.本解説では,DARTミッションの衝突前後の試みを簡易的に紹介する.