北関東医学
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口腔白板症の臨床ならびに病理学的検討
横堀 守
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1990 年 40 巻 1 号 p. 37-61

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抄録
当科を受診した口腔白板症68例 (79病変) について臨床ならびに病理組織学的観察を行い, 次の成績を得た.
1) 男性42例, 女性26例で40歳代以上に好発した.
2) 病変は歯肉が最も多く, 次いで舌, 口唇・頬粘膜, 口底の順であった.臨床的病型の特長から白斑型, 扁平膨隆型, 疣型, 発赤・びらんを伴う型の4型に分類した.この分類によると, 歯肉では白斑型, 扁平膨隆型, 舌では発赤・びらん型が最も多くみられた.口唇, 頬粘膜では白斑型が多く, 口底では白斑型, 発赤・びらん型が各1例ずつであった.5例は癌との併存例であり, 発赤・びらん型の4例は経過中に扁平上皮癌化した.
3) 喫煙率は男性70%, 女性44%であり, わが国における成人の喫煙率よりも高く, Brinkman index (B.I.) は平均で562を示し, 肺癌のハイリスクグループの基準値の1つであるB.I.400よりも高く, 本症発症の誘因としての意義があると思われた.
4) 金属補綴物や義歯との関係を貼布試験を参考にして調べた結果, 広く使われる歯科用金属を中心に53%が陽性反応を示し, 金属の接触アレルギーによる局所刺激を生じる可能性の高いことが示唆された.不適合な義歯, 齲蝕, 歯科用金属の接触アレルギーを加えると, 局所刺激が関与すると思われる症例は56%に達し, 局所刺激の重要性が推測された.
5) 白板症の原因となる全身的因子として挙げられている糖尿病や梅毒との関係は認められず, また血清免疫グロブリン, 血中ビタミン A, ビタミンB2, コレステロール値は正常範囲内にあり, 全身的因子は局所因子に比較してほとんどないと考えられた.
6) 組織学的には, 上皮層の厚さと細胞異型の有無により3型に分類された.
透過型電顕所見では, 対照群に比較して基底細胞層, 有棘細胞層に Langerhans細胞 (L. C.) がより多数観察された.
7) 免疫組織化学的に, 上皮内には多数の S-100陽性細胞がみられ, この細胞は L. C.と考えられた.各臨床型, 上皮層の厚さおよび上皮下細胞浸潤の程度と上皮内における S-100陽性細胞を検索した結果, 扁平膨隆型, 発赤・びらん型, 癌化症例において上皮内 S-100陽性細胞の数が増加していた.また上皮層の厚さおよび上皮下細胞浸潤の程度と上皮内 S-100陽性細胞数には, 相関関係が認められた.
8) 白板症の扁平膨隆型, 発赤・びらん型, 癌化した症例などにおける L. C.の増加は, 病巣部における抗原認識機構の機能亢進を示唆するものと考えられるが, 白斑型では L. C.の増加や上皮下細胞浸潤の亢進はなく, このような差異が感染や機械的刺激などの二次的な要因によってもたらされたものであるのか, あるいは, 両者の病的過程の違いによるものか今後の検討が必要と思われた.
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