抄録
分化した隕石中のオリビンの微細組織を観察する事は,地球内部の物質の形成過程を考える上で重要な情報を与えると考えられる.我々は,始原的エコンドライトに分類されるDivnoe隕石中のオリビンの微細組織を,電子線後方散乱回折法(EBSD)と透過型電子顕微鏡法(TEM)を用いて観察を進めている.
Divnoe隕石は等粒状完晶質のオリビンに富むエコンドライトである.オリビンの組成はFo72-75 mol%であり,しばしば120°で交わる三重合点が認められる直線的な粒界を持つ.粒径は0.5mmから1.0mm程度である.殆どのオリビンは,弱い波動消光を示している.EBSDによって,この波動消光の軸が(100)上にある事が分かる.オリビン中には不規則な割れ目が顕著に認められるが,平面状の割れ目は顕著ではない.光学顕微鏡と電子顕微鏡を用いた観察では,強い衝撃を受けた際に形成されるメルトポケットと不透明な衝撃脈は認められなかった.従って,上記のオリビンの存在様式から,Divnoe隕石が受けた衝撃変成の程度は, S2(very weakly shocked)に区分できる事が分かる.
EBSDを用いた観察により,オリビンが格子定向配列(LPO)を持つ事が分かった.このLPOは,[001]が極集中を,[100] と[010]が大円上に配置するパターンを示す.一般に,岩石中の鉱物のLPOは,1)対流するメルト中での晶出過程と2)大歪を伴う転位クリープ中に形成される.本LPOと同じパターンは,マントル中の変形したオリビンでは報告されていない.また,本LPOと本質的に同じパターンが既に幾つかの隕石中のオリビンで報告されており,1)によるLPOの形成メカニズムが示唆されている.従って,Divnoe隕石中に発達するオリビンのLPOは,隕石母天体中でのメルトからの晶出過程時に形成されたと考えられる.これは,Divnoe隕石中のオリビンが,衝撃などによる後の変成の影響を受ける事無く,隕石母天体中で形成された際の組織を保持している事を意味している.
LPOを示すオリビンをTEMで観察した.非常に密に絡み合った転位が存在する数マイクロメーターから20マイクロメーター幅の(100)に平行に延びる領域が複数認められた.この領域は,隣接する領域とはわずかに結晶方位を異にしている為,光学顕微鏡観察の際に認められた波動消光の原因であると考えられる.また,不均質に分布する直線的な[001]らせん転位も存在する.これら,絡み合った転位と[001]らせん転位は,相対的に高歪速度と低温条件下で形成される特徴的な転位として知られている.従って,これらの転位は,隕石の衝突の際に形成されたものと考えられる.
以上の様に,Divnoe隕石中のオリビンは,隕石母天体中で形成された際の組織を保持している事が明らかとなった.現在はこの事実を元に,TEMによる組織観察を進め,母天体中での発現現象を明らかにしている.
Divnoe隕石中のオリビン中には,Feの濃度差によるラメラが存在する.Petaev and Brearley(1994)は,このラメラの成因を離溶と考えた.この論文は,オリビン中の離溶現象の唯一の観察結果であるが,オリビンの離溶現象は一般的には疑問視されている.本講演では,TEM観察に基づいた,このラメラの成因の考察も行う.