日本鉱物学会年会講演要旨集
日本鉱物学会2003年度年会
セッションID: K1-07
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マントル鉱物の分解相転移カイネティクスと沈み込む海洋プレートの密度
*久保 友明大谷 栄治細矢 智史長瀬 敏郎亀卦川 卓美
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抄録
地球深部に沈み込んだ冷たい海洋プレート内での高圧相転移にともなう密度変化を知ることは、マントル対流の冷たい下降流のダイナミクスを理解するうえで非常に重要である。特にプレート内部の低温条件下では未反応の低圧相が存在する可能性が指摘されており、それは沈み込むプレートの密度に大きな影響を与える。本研究では最近行っている天然ガーネットとダイオプサイドの高圧分解相転移カイネティクス実験の結果を報告し、これまでに得られている他の相転移カイネティクスの結果も考慮して沈み込む海洋プレートの密度を考察する。相転移カイネティクス実験は高エネルギー加速器研究機構photon factoryにおいて放射光と川井型高圧装置(MAX-III)を組み合わせた高温高圧X線その場観察法を用いて行った。常温加圧後、母相の安定領域において1473K, 100分の条件でアニーリングを行い、等粒状の5-10ミクロンの多結晶体を作った後に相転移カイネティクスを観察している。天然ガーネットのMgペロフスカイト+Caペロフスカイト+スティショバイト+アルミナス相への分解相転移は28-32GPaにおいて1320Kでは3時間経過しても起こらず、1600, 1710, 1820Kにおいて相転移率の時間変化のデータを得た。2000Kでは相転移は数分以内に完了した。一方、ダイオプサイドからCaペロフスカイト+スピネル+スティショバイトへの分解、またダイオプサイドからCaペロフスカイト+イルメナイトへの分解は18-23 GPaにおいて1320Kでは3時間保持しても相転移は起こらず、1520Kにおいて相転移率の時間変化のデータを得た。得られたkinetic dataの予備的な解析から、これらの分解相転移の成長速度は時間とともに減少し、拡散律速の成長が起こっていることが予想された。同じような現象はこれまでにエンスタタイトのスピネル+スティショバイトへの分解相転移でも確認されている。我々がこれまでに研究を行ってきたpolymorphicなオリビンのα-β相転移やエンスタタイト-イルメナイト相転移(界面律速成長)、またポストスピネル分解相転移(ラメラ成長)では、同じように母相が5-10ミクロンの粒径をもつ場合、1300K付近で約10分以内に相転移が完了する。拡散律速の成長はそれに比較して非常に遅いことが明らかになってきた。分解相の成長形態は拡散律速の成長のカイネティクスに大きな影響を与える可能性があり、今後、回収試料の相転移微細組織の電顕観察と得られたkinetic data の定量的な解析を相補的に行っていく必要がある。例えばポストスピネル分解相転移ではサブミクロンの細かいラメラ組織を保ちながら成長していく。この場合、分解に必要な拡散距離が短くてすむため分解相転移にもかかわらず成長が速い。分解相の間には結晶学的な方位関係が認められ、そのために界面エネルギーが減少し細かいラメラ組織が実現されていると考えられる(Kubo et al., PEPI, 129, 153, 2002) 。一方ガーネットの分解相転移ではそのようなラメラ状の成長組織やトポタキシーは観察されず、分解相の成長速度は非常に遅い(Kubo et al., Nature 420, 803, 2002)。これまでに得られている相転移カイネティクスの結果を考慮して沈み込む海洋プレート本体のペリドタイト層の密度を考えると、オリビンやエンスタタイトの高圧相転移カイネティクスは非常に冷たい(周囲のマントルより900K以上低い)プレートにおいてのみ大きな影響をもち、特にマントル遷移層下部においてプレートの密度を減少させる可能性がある。一方、ガーネットやダイオプサイドの分解相転移カイネティクスは比較的暖かいプレートにおいても重要な役割をもち、下部マントル最上部のプレートに浮力を与える可能性がある。
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© 2003 日本鉱物科学会
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