日本鉱物学会年会講演要旨集
日本鉱物学会2003年度年会
セッションID: K4-05
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火山灰に含まれる斜方輝石の表面形態
*阿部 利弥小沼 一雄大塚 泰弘神崎 紀子川崎 雅之
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抄録

《はじめに》
 鉱物の成長は、ラフな界面での一様付着成長モデル、スムーズな界面での2次元核成長や渦巻成長モデルで一般に説明がなされている。事実、晶洞などの気相環境で形成された自形鉱物の表面上には、成長ステップによる渦巻が観察されている。しかしながら、マグマ起源、特に主要造岩鉱物に関しては、成長層の観察は殆どなされていない。
 天然鉱物の表面観察では、十分な分解能の観察手法が存在するか、"as-grown"の表面が得られるかが問題となる。観察手法の分解能は、原子間力顕微鏡(AFM)の出現によって格段に向上している。従って、表面状態の良好な結晶さえ準備できれば、ステップ高、間隔によらず成長層は検証できるはずである。しかしながら、マグマ起源の鉱物の場合、成長時の界面が冷却時に変化することなく残っているか、表面が露出した状態が得られるかが問題となる。幸い日本には多くの火山灰が存在し、風化程度も様々である。従って、爆発的な火山噴出により形成された火山灰を探せば、成長状態を示す鉱物が見つかるはずである。本報では、斜方輝石について得られた観察結果を報告する。
《試料・観察手法》
 第四紀の火山灰であり新鮮な状態が期待できることから、阿蘇4火山灰(70ka)と大山倉吉火山灰(46ka)に含まれる輝石を対象とした。阿蘇4火山灰は風化程度の異なる7試料(大分県および山口県)、大山倉吉火山灰は2試料(鳥取県)を準備した。斜方輝石の表面観察は、分離した結晶を偏光実体顕微鏡で確認した後、微分干渉顕微鏡(DIM)、AFMおよびSEMで調べた。
《結果・考察》
 阿蘇4火山灰では、火山ガラスに完全に覆われた斜方輝石から、結晶面上に僅かに火山ガラスが部分的に残っているもの、結晶面がほぼ完全に露出したもの、外形が失われる程度に風化が進んだものまで認められた。一方、大山倉吉の2試料では、部分的に火山ガラスが残った状態の自形斜方輝石が顕著であった。
 風化が認められる阿蘇4試料では、エッチピットの形成が認められた。ピットの形成はc軸方向で顕著であるが、a面など低指数面でも見られた。低指数面でのエッチピットは、菱形状逆角錐で対角方向(c軸方向)に伸長したものであり、初期段階では面上でまばらに認められた。風化程度が進むにつれ、ピットは鎖状に繋がりオリジナルな結晶面が失われていた。従って、風化プロセスは結晶界面が律速した緩やかな溶解プロセスであることがわかる。人工的なエッチングなどでは、エッチャントに応じたピット形状の変化も知られていることから、ピット形状が風化環境を反映している可能性もある。
 一方、阿蘇4と大山倉吉の自形斜方輝石のDIM観察では、曲線を基調とする厚いステップが幾つかの結晶において認められた。これらのステップは、弧の内側が高く、外側が低い形状であること、ステップ高が20~40nmで、滑らかなステップフロント状態であることがAFMの観察で確認された。従って、これらのステップは前進ステップであり成長時のものと判断でき、輝石のような複雑な構造をもつ珪酸塩鉱物がマグマ中でも層成長したことがわかる。今回観察された成長層は、単位格子の数十倍に相当する比較的厚いものであり、単位格子程度のものは認められなかった。この厚いステップがマグマに由来する輝石の特徴を示すものか、単分子相当の成長層が見つかっていないだけなのかは判断ができないが、マグマ内での成長単元の状態を反映している可能性もある。

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© 2003 日本鉱物科学会
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