抄録
[序論]
方解石(calcite,CaCO3)は,その生成環境により様々な結晶形態(晶癖,晶相)が出現することが知られている.一方,溶液からの成長実験では,溶液中の不純物や微量元素によって方解石の成長速度が大きく影響することが報告されている.この不純物や微量元素は,溶液より析出した方解石の結晶表面に吸着してその成長を阻害し,また吸着の表面選択性によりその結晶形態に影響するものと考えられる.よって成長した結晶の形態を解析(伸長方向や結晶面の決定)することは,方解石の結晶成長における不純物や微量元素の影響を原子論的に解釈するために重要である.我々は今までの研究で溶液中の微量のLa3+が方解石の結晶成長を大きく遅らすことを報告した[1].本研究では,主に電子後方散乱回折(Electron Back-Scattering Diffraction:以下EBSDと略記)を用いて,La3+の存在下で成長した粒径数μm程度の方解石の結晶形態と結晶方位の関係を調べ,微量元素の結晶形態に与える影響を考察した.
[実験方法]
炭酸カルシウムの合成方法は文献[1]に準拠した.一定量のLa3+(5-10μM)を含む,30mMCaCl2溶液と30mMNaHCO3溶液を等量混合し,密閉容器中において約30℃で反応させ,一定時間おきにシリンジを用いてシリコンラバーセプタムより0.2-0.4ml程度の溶液を回収した.溶液中の析出物はシリンジに備え付けてあるフィルター上に分散しており,常温で乾燥させてカーボンを蒸着させた後,高分解能SEM(Hitachi S-4500)およびEBSD(ThermoNoran Phase-ID)による観察・解析を行った.
[結果と考察]
X線粉末回折やEBSDによる分析の結果,La3+を加えていない溶液からの結晶相は方解石およびバテライト(vaterite)であることが分かった.この方解石は一般に良く見られる{104}面が発達した菱面体結晶であった.またバテライト結晶は凸レンズ状の形態の単結晶が複雑に入り組んだ構造であり,c軸は凸レンズの中心面に対し垂直であった.一方,La3+を加えた溶液からの結晶相も同様に方解石とバテライトであった.しかし,方解石結晶の形態は時間の経過に従い変化し,約1700分反応させ平衡形に達したと考えられる単結晶は,c軸を中心にして3つの<210>方向(映進面)に沿って結晶が成長した独特の外形を有し,{104}面は見られなかった.またバテライト結晶の形態に関してはLa3+を加えない場合と同様であった.以上のことから,La3+はバテライトには影響を与えない一方で,方解石のある面に吸着し正常な結晶成長を阻害していると考えられる.
[文献]
[1]. H. Tsuno, H. Kagi, T. Akagi, Bull. Chem. Soc. Jpn., 74, 479-486(2001).