日本鉱物学会年会講演要旨集
日本鉱物学会2004年度年会
セッションID: k01-10
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集束イオンビームによるレーザー加熱ダイヤモンドアンビルセル回収試料の加工と透過型電子顕微鏡観察
*入舩 徹男一色 麻衣子阪本 志津枝
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抄録

集束イオンビーム装置(FIB)では、高電圧でガリウムイオンビームを加速・照射することにより、試料を観察しながらの精密な加工を行うことが可能であり、ナノテクノロジー分野において重要な基盤技術である。最近、地球科学分野においても微細鉱物の透過型電子顕微鏡(TEM)観察のための薄膜加工への応用がされているが、これまでのところ高圧合成試料の薄膜加工についてはほとんど行われていない。我々はGRCにおいてTEM観察用薄膜加工に特化したFIB(JEM-9310FIB)を導入し、マルチアンビル装置やレーザー加熱ダイヤモンドアンビルセル(LHDAC)による高圧合成試料の薄膜加工、および分析電顕による観察を開始した。ここではその一例として、マグネサイトの相転移X線その場観察実験で得られた回収試料の薄膜加工とTEM観察の結果について報告する。試料は天然の(Mg0.995Ca0.004Fe0.001)CO3マグネサイト微細粉末(粒径~0.1-1.0 μm)に圧力マーカーのPt粉末(粒径<~1 μm)を混合したものを、断熱材としてAl2O3粉末のディスクで挟んだものを用いた。この試料を高圧下においてYAGレーザーにより両面加熱した後、回収試料としてガスケットとともに取り出した。直径50-100 μm、厚さ10 μm程度の円板状回収試料の中心部より、DAC試料の厚み(加圧軸)方向5 μm、直径方向10 μm、厚さ100 nm程度の短冊状の試料をFIBを用いて切り出した。作成した薄膜試料はマイクロマニュピュレーターを用いて取り出し、炭素膜コーティングが施されたTEM観察用メッシュに取り付けた。得られた試料はGRCの200 kV分析電顕(JEM-2010)を用いて組織観察、元素定性分析、および電子線回折解析をおこなった。我々はSPring-8の放射光を用いた高温高圧下X線その場観察により、マグネサイトが115 GPa程度の圧力で新しい高圧相(マグネサイトII)に相転移することを最近報告した(Isshiki et al., 2004)。このマグネサイトIIは常温常圧下には凍結できず、X線その場観察の結果から脱圧に伴いマグネサイトに逆相転移すると判断した。本研究ではマグネサイトの安定領域(MS-29; 30 GPa, 2300 K)、およびマグネサイトIIの安定領域(MS-15; 115 GPa, 2200 K)で合成した2つの試料について、DAC試料の厚み(加圧軸)方向で作成した試料のTEM観察をおこなった。定性分析の結果、試料部はいずれも出発物質の組成と変わらず、マグネサイトの分解やAl2O3断熱材のとの反応は認められなかった。また場所によっては加工に用いられたガリウムイオンの存在が確認された。MS-29においては、試料はマグネサイトであることが確認されたが、ダイヤモンドアンビルのキュレット面から離れた試料中心部では、明らかな粒成長がみられた。MS-15ではAl2O3断熱材に接した部分では微粒(数10 nm)ながらマグネサイトが電子線回折から確認されたが、中心部のより高温の領域では粒界は認められず、電子線回折の結果からも非晶質化していることが明らかになった。このことは高圧相のマグネサイトIIが脱圧過程で非晶質化したことを示しており、X線その場観察では分からなかった事実である。このようにFIBで加工された試料のTEM観察により、従来は明確でなかったLHDAC試料の厚み方向の温度勾配に伴う試料の変化が明確に観察できた。今後このような高圧合成試料のTEM観察において、FIBによる試料の加工は非常に重要な役割を果たすものと考えられる。

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© 2004 日本鉱物科学会
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