日本鉱物学会年会講演要旨集
日本鉱物学会2004年度年会
セッションID: k01-11
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ペリドタイト中の含水鉱物から脱水した水
*安東 淳一富岡 尚敬松原 一成井上 徹入舩 徹男
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抄録

はじめに: 地表から地球深部への水の供給は,沈み込む海洋スラブを構成している含水鉱物の脱水が重要な役割を果している.水の相図を用いて考えると,この様にして脱水した水は超臨界状態にあると考えられる.液体の水と超臨界状態にある水では,多くの物理的化学的な特性が異なるので,地球深部での脱水・その後の水の移動に関係する様々な現象を理解する為には,高圧条件下での水の特性を知る必要がある.本研究では,脱水した超臨界水の挙動と化学的な特性を明らかにする為に,ペリドタイトを用いた高温高圧実験を行い,回収試料の微細組織の観察,及び,化学組成の測定を行った. 実験: 試料には,日高変成帯ウエンザル岩体中に露出するペリドタイトを用いた.このペリドタイトは,オリビン(Fo91,粒径220μmから1.6 mm)と斜方輝石からなる粗粒層と,オリビン(Fo91,粒径10μm から120μm)・スピネルとトレモライト・クロライト・蛇紋石・タルクと言った含水鉱物からなる細粒層が互層したポーフィロクラスティク組織を呈している。また,クロライト・蛇紋石・タルクは,オリビン粒子間やオリビン中の割れ目に沿って,幅数μmから10μmの脈としても存在している.このペリドタイトをダイアモンドドリルによってコア抜きし,直径1.4 mm/長さ2.0 mm と1.5 mmの円柱状に整形した物を高温高圧実験の出発物質とした. 高温高圧実験は,愛媛大学所有の高圧発生装置ORANGE-2000を用いて行った。実験条件は,マントル遷移層に匹敵する圧力(約14.5 GPa)で,500℃から800℃の温度である。この条件は,オリビンのβ相とγ相の2相安定領域に対応する.目的の温度と圧力を保持し,10分から2880分間の様々な時間で加熱を行った. 回収試料はEPMA,分析機能付透過型電子顕微鏡,RAMANによって組織観察,化学組成,相の同定を行った。本研究の重要な特徴は,透過型電子顕微鏡用の試料の作成に収束イオンビーム法を用いた事である.高圧下で超臨界水であった場所は弱部分である為に,イオン薄膜法では選択的に薄膜化され消失していた.しかし,収束イオンビーム法を用いる事で,この弱部分の薄膜作成が可能となった.結果: 回収試料から以下の事がわかった.1)時間の経過と共に,単結晶オリビンの縁から中心に向かってγ相の多結晶体が成長する.このγ相は,重量パーセントの欠損より0.5%-2%の水を含有していると考えられる.2)γ相が分布している領域のみに,含水鉱物の脱水を起源とするH2O包有物(直径1μm以下)が存在する.このH2O包有物はほぼ直線的な外形を有する多角形で,γ相間に存在している.3)相転移前の単結晶オリビンと相転移後のγ相多結晶間には幅約1μmのガラスが存在している.このガラスはオリビン及びγ相に比べてFeとSiに富む.また,オリビンとγ相ではほとんど測定されないCaを含んでいる.この化学組成の特徴は,上述したH2O包有物でも同じである.このガラスとH2O包有物は超臨界水の急冷ガラスと考えられる.4)単結晶オリビンが完全にγ相に転移してしまうと,H2O包有物が希薄な部分からβ相が生成する。このβ相は,重量パーセントの欠損より1%-2%の水を含有していると考えられる.5)含水β相の生成と成長にともない,γ相の含水量が減少する。そして,2880分後には,粒径が10μm-50μm程度の含水β相と10μm以下のほぼ無水状態のγ相が共存する組織となる。この時の,β相とγ相の水の分配係数は約4.5である. これらの観察事実より,高圧条件で脱水した水の特性を考察する.

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© 2004 日本鉱物科学会
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