抄録
はじめに 始原的な岩石学的タイプ1-3の炭素質コンドライト中には、層状珪酸塩などの含水鉱物が含まれている。これら含水鉱物は、始原天体上で、カンラン石などの無水鉱物が、水質変成によって二次的に生成したと考えられている。しかし、その具体的なプロセスや条件は良く分かっていない。現在まで、水質変成のプロセス解明のため、天然の隕石試料を出発物質として、酸性および中性溶液を用いた水熱実験が行われてきた(Tomeoka & Kojima, 1995など)。本研究では、高アルカリ溶液によるアエンデ隕石(CV3コンドライト)水熱実験を行い、その結果を酸性および中性溶液による結果と比較した。実験方法 アエンデ隕石の小片を1規定水酸化ナトリウム溶液(pH=14)とともに金チューブに封入し、水熱合成装置(400℃、800気圧)で1週間反応させたのち、実験回収試料を、粉末X線回折(XRD)装置、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて分析、観察した。結果と考察 実験後回収した隕石バルク試料のXRD分析において、14-15Åと7Åに大きなピークが見られたことから、クローライトとサーペンティンが生成したことが示唆される。 SEMおよびTEM観察の結果、マトリクスの大部分が変成しており、Alに乏しいサーペンティン(<1 Al2O3 wt%)が生成していることが分かった。マトリクスの主要構成鉱物であるFeに富むカンラン石は、紡錘状の原形を留めておらず、多くは大きさ5μm以下の細粒の微粒子としてマトリクス中に残存している。一方、コンドリュール中では、メソスタシスやエンスタタイトが部分的に交代変成しているものの、Mgに富むカンラン石やCaに富む輝石は変成されていない。メソスタシスを交代している層状珪酸塩は、Alに富むクローライト(8-15 Al2O3 wt%)であり、エンスタタイトを交代している層状珪酸塩は、クローライトとサーペンティンの中間の組成を示す(3-8 Al2O3 wt%)ことから、両者の混合物であると推測される。また、コンドリュール中のエンスタタイトやカンラン石の割れ目の中には、サーペンティンができており、脈状組織(幅<20μm、長さ<100μm)を形成している。 以上の結果から、アルカリ条件下では、マトリクスが最も変成されやすく、次いでコンドリュール中のメソスタシス、エンスタタイトが変成されやすいことが分かった。一方、酸性条件下(1規定塩酸溶液)でのアエンデ隕石水熱実験(Tomeoka & Kojima, 1995)では、コンドリュール中のメソスタシスやエンスタタイトの大部分がサポナイトに交代されているのに対し、マトリクス中のFeに富むカンラン石は比較的変成を免れ、大きさ10-50μmのサポナイト集合体がまばらに生成しているにすぎない。また、中性条件下(純水)では、酸性条件下よりも変成の程度は低く、コンドリュール中のメソスタシスやエンスタタイトが一部サポナイトに交代されているのに対し、マトリクス中では、Feに富むカンラン石の隙間にサポナイトがわずかに生成しているにすぎない(Kojima & Tomeoka, 1999)。珪酸塩鉱物の溶解速度は溶液のpHに強く依存することが知られており、今回の結果は、Feに富むカンラン石がアルカリ条件において溶解しやすいことを物語っている。