抄録
玄武岩質火星隕石Y980459は同じグループに属する他の火星隕石に見られない多くの特徴を持っており、この隕石の形成過程を明らかにすることは火星マグマに対する知識を深める上で重要である。そこで、我々はこの隕石の形成過程を結晶化実験及び、MELTSを用いた相平衡計算、冷却速度の計算により研究した。その結果、この隕石の全岩組成が親マグマの組成を残している事が分かった。また、石基部のカンラン石及び輝石のコアの組成はカンラン石巨晶のリム部の組成と平衡であり、カンラン石巨晶リム部と石基部の結晶化が連続であることを示している。輝石中のAlの組成変化から、この隕石に斜長石が含まれていない理由は、急冷による過冷却により斜長石の結晶化が抑止されたと考えられる。結晶成長を考慮に入れたFe-Mgの元素拡散計算によりカンラン石巨晶の結晶化速度を見積もったところ、その速度は約1度/時であった。