日本鉱物学会年会講演要旨集
日本鉱物学会2004年度年会
セッションID: k10-04
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酸素同位体と希土類元素からみた太陽系最古の固体物質CAIの起源
*比屋根 肇留岡 和重
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抄録
 コンドライトと呼ばれる一群の隕石(始源的隕石)は、太陽系形成期に原始太陽のまわりを取り巻いていた原始太陽系円盤(水素・ヘリウム主体のガスの中に固体微粒子が1%程度含まれる)の中で形成された種々のコンポーネントを含んでいる。そのひとつに難揮発性包有物(Refractory Inclusion(RI)、またはCa-Alに富む包有物(CAI))がある。難揮発性包有物は、(1)文字どおり難揮発性、すなわち高温鉱物の集合体であること(主要構成鉱物はスピネル、メリライト、Ca輝石(しばしばAl, Tiに富む)、アノーサイト等)、(2)太陽系最古の年代(Pb-Pb年代で4567Ma)を持つこと、(3)大きな酸素同位体異常を持つこと、といった特徴がある。CAIが太陽系形成最初期の非常に高温のイベントによってつくられたことは確かである。 CAIは特異な酸素同位体異常を持っている。酸素には質量数16、17、18の3つの同位体があり、地球ではその存在度比はおよそ99.76%:0.20%:0.04%である。CAIを構成している鉱物は、(17O/18O)比がノーマルなのに、16Oだけが4-5%も過剰に存在する。最近のイオンマイクロプローブ分析技術の発達により、鉱物ごとの、あるいは鉱物内部の酸素同位体組成の分布が詳細に調べられるようになった。その結果、CAIに典型的な鉱物だけでなくオリビンなどにも同様の酸素同位体異常が存在すること、異なるコンドライトグループでもCAIの酸素同位体組成は一定であること、などの事実が明らかになった。 CAIの酸素同位体異常を説明するには、通常の化学反応や蒸発・凝縮・拡散などのプロセスで生じる「質量依存同位体分別」ではなく、「質量に依存しない同位体分別」が必要である。可能な説明としては、 (i) 16Oに富む太陽系外起源粒子の混入、(ii) 初期太陽系に存在した同位体不均一、(iii) 質量に依存しない同位体分別効果の存在、などの可能性が考えられよう。Robert Claytonは最近、太陽光により原始太陽系星雲内の一酸化炭素が解離して酸素原子を生成するとき、同位体によって解離に用いられる(吸収される)波長が微妙に異なることに注目し、新しい説を提唱した。16Oは存在度が高いため、その反応に関与する波長の光は吸収が激しく、原始太陽系星雲の浅いところまでしか届かない。一方、17O、18Oは存在度が低いため、反応に関与する波長の光は原始太陽系星雲の奥深くまで届く。このような自己シールド効果の違いにより、星雲内部では解離された酸素原子の中で17O、18Oが圧倒的となる。すなわち質量に依存しない同位体分別効果が生じる。Claytonは太陽系のもともとの酸素同位体組成はCAI的であり、地球も月も多くの隕石もすべて反応によって17O、18Oに富むようになったと考えている。面白い考えではあるが、まだまだ議論の余地があろう。太陽系の平均的な酸素同位体組成については、ジェネシス計画(太陽風の酸素同位体組成の直接分析)によって明らかにされるだろう。 酸素同位体はガスと固体の反応に関して面白い知見を与えてくれるが、CAI形成時の温度、酸素分圧、あるいは蒸発・凝縮プロセスなどについては別のアプローチが必要である。講演では、イオンマイクロプローブによるCAIの希土類元素分析の最近の例をいくつか取りあげて、鉱物の微量元素分析がどのようにCAI形成の謎ときにかかわってくるかについても紹介したい。
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© 2004 日本鉱物科学会
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