抄録
はじめに 柱石(scapolite)は組成式3(NaAlSi3O8)NaCl [曹柱石marialite: Ma]と3(CaAl2Si8O8)CaCO3 [灰柱石meionite: Me]を端成分にもつ正方晶系のフレームワーク珪酸塩鉱物である。固溶体の組成はNaSi⇔CaAlとNaCl⇔CaCO3の2つの置換様式が組み合わさり単純な端成分の和にならない。対称性については、両端成分に近い組成ではI4/m (消滅則 hkl;h+k+l=奇数)、中間組成ではP格子を示すことが報告されている。P格子の空間群はこれまでAl/Siの秩序化によるP42/n(消滅則hk0;h+k=奇数, 00l;l=奇数)と、Cl/CO3の秩序化によるP4/m(消滅則なし)の2つの可能性が報告されているが、どちらが正しいのか、あるいは2つの秩序様式が同時に起こりうるのかといった議論は行われていない。本研究ではこの2つの秩序様式と結晶成長面に関係があることを見出し、詳細な観察・分析を行った。実験と結果 長野県甲武信鉱山、およびノルウェーHamrefjell産の柱石はc軸に伸長した柱状結晶で、光学顕微鏡下で組成累帯構造とセクター構造が観察される。特にc軸垂直薄片における柱面{100},{110},{130}のセクターが顕著である。EPMAによる分析の結果、Me成分は成長方向に十数%程度変動し、さらにセクター間でもMe成分に数%程度の差があり、{110},{100},{130}セクターの順にMe成分に富むことがわかった。電子線回折の結果、一般的な奇数反射はどの部分にも出現するためI格子ではなくP格子をもつ試料であることがわかった。しかし[001]からの回折図形ではhk0, h+k=奇数の反射が観察される部位と観察されない部位が存在した。hk0, h+k=奇数の反射の存在はc軸垂直のn映進面が存在しないことを示す。さらにこの奇数斑点を用いて暗視野像観察を行ったところ、{100}セクターに成長面と平行な数十∼百nm程度の縞状組織が観察された。考察 Al/Siの秩序無秩序にかかわらず、Cl/CO3が秩序化した場合n映進面は消滅する。したがってhk0, h+k=奇数の斑点が観察される部位(縞状組織)ではn映進面は存在しないため、Cl/CO3の秩序化が起こっている可能性が高いといえる。またhk0, h+k=奇数の斑点が観察されない部位でも、一般的な奇数反射は観察されるため、Cl/CO3は無秩序のままでAl/Si のみの秩序化が起こっていると考えられる。すなわち中間組成の柱石では2つの秩序様式が両方起こりうるといえる。またCl/CO3秩序化組織がnmオーダーで観察されること、組成累帯構造は非常に明確であることから、結晶成長後に形成された組織ではなく、結晶成長時に(100)結晶面でCl/CO3の秩序化が起こったと考えられる。