抄録
近年、CaIrO3型構造が、地球を構成する主要な酸化物の高圧相として出現することが注目されはじめた。高圧鉱物は常温常圧条件では準安定な状態なので、しばしば高温高圧状態を凍結して常温常圧条件で観察することができない。CaIrO3型構造を持つ高圧相もその例の一つである。したがって、本研究では、高温高圧条件でのその場観察の手法を用いることにより、CaIrO3型構造を持つ、高圧鉱物を観察することを試みた。高圧実験は、ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を使用し、X線その場観察の手法を組み合わせた。X線実験はSPring-8のBL10XU [1]とPFのBL13A [2]の放射光を使用した。室温条件で圧力を上げていくだけで、高圧相へ相転移する物質も存在するが、多くの場合、相転移にともなうカイネティクスの影響により、圧力を上げるだけでは熱力学的に安定な高圧相へ相転移しないことがある。そこで本研究では、高圧条件でレーザーによる加熱を行い、相転移を促す方法を用いた。加熱レーザーはSPring-8ではYLF型レーザーを用いた。YLF型レーザーは優れた性能を示すことが知られているが、PFではこのタイプの高性能レーザーが使用できないため、旧タイプのYAG型レーザーを使用した。Fe2O3は常圧ではコランダム構造をとり、圧力の上昇にともなってペロフスカイト型あるいはRh2O3(II)型構造へ相転移することが報告されている。本研究では、アルゴンあるいはNaCl圧媒体に入れたFe2O3試料を、高圧条件で加熱をしたところ、約60GPaで新しい構造へ相転移することを観察した[3]。新しい高圧相はCaIrO3型構造を示していて、さらに試料圧力を上昇したが、約100 GPaまでの圧力条件では安定に存在できることが判明した。相転移境界を精密に決定することを試みたところ、相境界の傾きは2.2MPa/Kであった。次にMgSiO3を実験の出発物質として用いた。MgSiO3は約23GPaでイルメナイト型構造(コランダム構造)からペロフスカイト構造で相転移することが広く知られている。本研究ではアルゴン圧媒体に入れたMgSiO3試料を、高圧条件で加熱したところ、約130GPaで新しい構造へ相転移することが判明した[4]。この高圧相もCaIrO3型構造を示していて、約160GPaの圧力まで安定に存在することを確認した。最後にAl2O3を実験の出発物質として用いた。Al2O3は常圧ではコランダム構造をとり、圧力の上昇にともなって、約80GPaでRh2O3(II)型へ相転移することが報告されている。本研究では圧媒体を使用せずにAl2O3試料を高圧条件で加熱したところ、約200GPaで新しい構造へ相転移することが判明した。この高圧相もまたCaIrO3型構造を示していた。本研究によって確認された高圧鉱物を整理すると、低い圧力条件でコランダム構造を持つ鉱物は、ペロフスカイト型あるいはRh2O3(II)型へ相転移した後、最終的にはCaIrO3型構造へ相転移するということが導かれる。[引用文献][1] Ono et al., Phys. Chem. Mineral., 29, 527-531 (2002); [2] Ono et al., Phys. Earth Planet. Inter., 131, 311-318 (2002); [3] Ono et al., J. Phys. Chem. Solid., 65, 1527-1530 (2004); [4] Oganov & Ono, Nature, 430, 445-448 (2004)