日本鉱物学会年会講演要旨集
日本鉱物学会2004年度年会
セッションID: k06-05
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ジャゴケ葉状体中の weddellite
田路 陽子*芳賀 信彦土肥 輝美
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抄録

はじめに・・・・高等植物にはその葉の中に過剰カルシウムの貯蔵としてシュウ酸カルシウム水和物をしばしば含んでいる。高等植物と同じに葉緑体を持ち、維管束が無い蘚苔類(コケ植物)にこのような結晶が系統的に存在するかどうかは良く分かっていない。われわれは蘚苔類が葉に蓄積する元素の特徴や、元素集積ゴケの探索、葉につくられる有機鉱物の探索の手始めとして幾つかの蘚苔類の化学成分や結晶の有無を調べた。その結果、苔類であるジャゴケにシュウ酸カルシウム二水和物(weddellite) を見いだしたので、同時に見いだされた他の有機鉱物と合わせて報告する。コケ試料・・・・蘚類としてホウオウゴケ属(Fissidens)、ミズゴケ属(Sphagnum)、ホンモンジゴケ(Scopelophila cataractae)など、苔類としてフタバネゼニゴケ(Marchantia paleacea subsp. diptera)、ジャゴケ(Conocephalum conicum)、ホソバミズゼニゴケ(Pellia endiviifolia)などを使用した。仮根を取り除き、水洗、超音波洗浄を行い、恒温槽で45℃で十分乾燥を行った。そのまま粉末に砕き粉末X線回折に使用した。SEM, EPMA用にはカミソリで薄片状にそいで、カーボンテープで保持した。放射光蛍光X線分析用には中空スチロール板にカーボンテープを張り、穴を開けて中空部をつくった後、葉状体を貼り付けた。実験、議論・・・・粉末X 線回折ではすべての試料で4.0Åを鈍い頂点とした高いバックグラウンドが観察され、蘚苔類にも多くのケイ酸が含まれていることを示唆した。結晶によるピークはこれに比べごく弱い強度であった。ホソバミズゼニゴケでは明瞭なsylvite (KCl) のピークが出現するが、これは水溶性なので乾燥時に析出した可能性が高い。このコケの葉には他の蘚苔類に比べてK, Clが著しく多く含まれ、乾燥すると結晶化が簡単に進むことが理解できる。シュウ酸塩としては、アンモニウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウムシュウ酸塩水和物のピークが判別できた。このうちシュウ酸カルシウム二水和物(weddellite)はジャゴケにのみ検出された。ジャゴケのweddelliteは光学顕微鏡では見いだせなかったので、EPMA によりCaの元素マッピングを行いCa 元素が集中している場所をSEMにより観察した。その結果、大きさ1 μm 以下のソロバン玉状の結晶よりなる、膜に囲まれた5 μm 程の集合体を見いだすことができた。この大きさはホウレンソウ中の集合体に比べると著しく小さい。蘚苔類では、高等植物に比べ、維管束がないのでカルシウムの葉への輸送が小さい、葉の大きさが著しく小さいので、カルシウムの貯蔵場所がとれない、葉を食べる外敵が少ないので貯蓄する必要がない、などの理由でシュウ酸カルシウムの結晶が少ないと考えられる。Cu の集積ゴケであるホンモンジゴケでは、Cuを含んだ結晶を見いだすことはできなかった。かわりにアンモニウムシュウ酸塩oxammite が含まれていることがわかった。まとめ、今後の課題・・・・蘚苔類では高等植物に普通に見られるようなシュウ酸カルシウム水和物の産出は稀である。そのかわり、アンモニウム、ナトリウムのシュウ酸塩がかなり普通に見られる。葉状体にはCa, Mn, Fe, Cu, Zn などは常にバルクとして含まれ、さらにコケの種類により量比に特徴が見られるので、異常に特定の元素を含む元素集積ゴケの発見、また含有元素が結晶にどう反映されるのか、石灰岩、蛇紋岩、強酸性温泉、金属鉱山地域など、特殊な元素の濃縮地域で化学組成にどのような変化があるか、などが今後の課題である。

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© 2004 日本鉱物科学会
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