抄録
プレカンブリア初期生命を探ることは、地球における生物進化の観点から、またそれを手がかりに地球外生命をさぐるアストロバイオロジーの視点からも最近注目されてきている( Glimour & Sephton,2003) 。しかし従来、微生物化石はその形態を中心に、また同位体組成等が手がかりとされることが多く、実際の物質としては何から構成されているか、鉱物種、鉱物組織等については十分には検討されてこなかった。今回、プレカンブリア太古代のチャート質堆積物について、主に鉱物の側面から、探ることを主目標として、検討した。 試料と実験方法:マーブルバーチャート西オーストラリア州西部ピルバラのWarrawoona Groopに屬す連続性のよい試料で35億年前の年代が知られている。微化石については、従来Schopf(1993)らの研究がある。今回、マーブルバーチャートについての国際共同プロジェクト研究( Archean Biosphere Drilling Project)として、掘削された約300mまでのボーリングコア試料について検討した。また、カナダ、ガンフリント産の黒色のチャート試料も比較検討の為用いて微生物化石様構造部分について検討した。この試料では、有名な球状の「微生物化石」様構造が知られている。これらの試料は、薄片作成、光学顕微鏡観察、走査電顕観察、イオン研摩試料の作成、透過電顕観察を行った。走査電顕観察用エッチングは、3%HFに10分間浸したものを用いた。 マーブルバーチャートの観察結果:チャート試料は大きくわけて、赤色チャートと黒色から灰色チャートがある。赤色部分はさらに赤と白のバンドが交互に繰り返す。赤いバンドに見える主な原因は、1ミクロン以下のヘマタイトの微細な結晶を大量に含んでいるためである。白バンドはほとんど石英だけからなる。バンドを横断して全域に微小なシデライトが存在する。赤色部の底部に、特異なフィラメント状構造が見られた。サイズの分布を検討した。白いバンドで全体が濁っているところがみられたが、その原因はシデライトの存在であることがわかった。赤色部からはイルメナイト、シャモサイト、マスコバイト等がみられた。今回、黒色から灰色チャートに特に着目して検討した結果、これに、微小な微生物様化石ともとらえられる組織構造がみられた。光学顕微鏡だけでは、生物由来かどうかなんとも結論づけにくいが、この部分を電顕で検討した。その結果、その部分にはアモルファス状態の炭素(有機物)が多量に存在していることがわかった。これには他にイオウもわずか含む。またその中に石英粒がきれいな丸みをおびた粒状構造をつくっている、組織がみられた。この成因について、結論を導くのにはまだ早いが、黒色から灰色チャートにとって重要な意味をもつ組織と考えられる。 ガンフリントチャートとの比較検討:カナダ南部、スペリオル湖北岸、kakabeka fallsより産出したガンフリントチャートも検討した。球状の「微生物化石」様構造に対応して、同心円状に鉱物種のことなる興味深い組織がみられた。低結晶の炭素も存在した。化石細胞状に見える構造についてはサイズ的には15ミクロン程度のものが多い。走査電顕では、細胞状組織のHF耐性の違いがみられた。透過電顕観察で細胞状構造は、最外層、中間層、 中心部の3つの同心状構造からなっていることがわかった。最外部は、アンケライト、中間層は主に石英、中心部はハイドロキシルアパタイトからなっており、生物に深くかかわると考えられるP鉱物が含まれる点、重要と考えられる。Ref. Glimour I & Sephton MA (eds),2003, Introduction to Astrobiology, Open Univ.; Schopf JW 1993, Science 260,640