2019 年 40 巻 p. 142-159
本稿では、自然会話に生起する依頼の相互行為において、依頼者が依頼の対象となる物に言及して相手と共有する話者のターンの組み立て方を分析対象とし、依頼の展開でその共有化作業がどのような手立て・言語的資源によって組織されるかを明らかにすることを目的とする。
分析の結果として、依頼を展開するにあたり、①依頼の対象物への認識要求、②認識用指示試行、③描写・説明の形による対象物の提示、という3つの手立てが利用可能であり、どのような手立てが選択されるかは、被依頼者が、当の対象物に対する既存の共有知識の有無という「依頼者の想定」に応じて、「被依頼者に合わせた発話デザイン」で決まることを示した。最終的に、各手立ては、依頼の本題行為を行うための「準備」として、相互行為で言及される当の対象物に対する被依頼者の認識・理解の問題に対処するために利用できるものであることを明らかにした。