会話分析というアプローチでは、会話参与者たちの物語を語る行為に、またいかに語るか(物語を語る方法)に重点を置いている。会話参与者は物語の前置き連鎖(story preface sequence)を利用して物語を語ることを予告している(Sacks 1974)とされる。一方、李(2000)の研究では、日本語会話の中で、前置き連鎖が必ずしも用いられるとは言えないことを明らかにしているが、具体的にどのように物語を語り始めるかについてはまだ不明である。そこで、本稿では、二つの事例において、会話参与者が明白な予告をせずに、いかに物語を語る機会を作り、物語を語り始めるかを明らかにした。分析の結果として、前置き連鎖を用いないことによって、会話参与者が相手の発話に敏感に反応し、慎重に相手への同調や説明という行為を完了することが分かった。