ことば
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Print ISSN : 0389-4878
個人研究
自然会話コーパスに見られるほめへの応答
「ほめられたら謙遜する」という定説を再考する
髙宮 優実
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2022 年 43 巻 p. 111-128

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抄録

他者との会話において、自己を肯定的に評価する言語行動は、従来避けるものとされ(関崎2022)、先行研究においても、上下関係や親疎の度合いを問わず、ほめへの応答は圧倒的に回避型が多いという結果が出ている(大野2005)。「ほめられたら謙遜する」という定説は、日本語教育の現場において、ほめられた際の応答のしかたなどの指導にも影響を与えている。しかし安易な型の押しつけはステレオタイプに偏った会話を生むのではないだろうか。このため自然会話での使用実態に基づいた検証が重要であると考えた。

本研究では、2つの会話コーパスを用いて、同等の立場にある大学生同士の自然会話を分析した。その結果、ほめに対する応答のタイプとしては、大野(2005)の研究結果どおり、「回避型」が最も多く見られたものの、「受け入れ型」も多いことが分かった。次に、回避型や受け入れ型で応答した会話のその後のやりとりを会話コーパス上で精査した結果、ほめられた側は①ほめられた直後にはほめを回避するが、その後ほめを受け入れる、②ほめられた直後にはほめを受け入れるが、その後ほめを回避するという2つのストラテジーを用いて会話を続けていることが分かった。これは相手との良好な人間関係を維持・構築するために行われているものと考えられる。

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© 2022 現代日本語研究会
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