抄録
「共生」という理念や実践は、社会的課題の克服に寄与すると期待されている 一方で、曖昧に掲げるだけでは、生きづらさを感じる人々に対して加害性を 持ちうる。さらに、共生の対象や主体が多様化し、議論も拡散している。こ のような状況下で、共生概念の問題点を認識した議論や実践を行うためには、 各々のいう共生の意味や特徴を明確にする必要がある。そこで本論文では先 行研究における「創造的共生モデル」と共生思想の諸潮流を結びつける「多 層的共生モデル」を提案する。まず共生の定義として、異なる存在同士が「対 等な関係」を築くことが重要であるということを確認する。次いで、既存の モデルに修正を加え図示する。続いて 1980 年代以降の共生思想を、棲み分け 共生論、リベラル共生論、共同共生論、省察-変容共生論という潮流に整理 し、それぞれを本モデルに関連づけながら考察を深める。最後に、本モデル を起点に今後共生学の基層的な議論を行っていくための課題を示す。