主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2019
回次: 1
開催地: 鹿児島
開催日: 2019/10/12 - 2019/10/13
p. 31
【はじめに】
悪液質は,栄養療法で改善することが困難な著しい筋肉量の減少がみられる進行性の代謝異常症候群と定義されており,運動による抗炎症作用は悪液質の進行を遅延させる効果が期待されている。今回,入院時から悪液質を呈した末期食道がん患者に対して栄養状態に応じた運動療法を実施し,終末期までADL維持を図ることができた症例を経験したため報告する。
【症例】
症例は右下肢・骨盤の疼痛と体重減少を主訴に当院を受診した,末期食道がん(stageIV, T4N1M1)の70歳代男性である。入院時の体重は52kgで半年間の体重減少率は10.8%であった。Palliative Prognostic Indexは4.5で30日生存確率は約35%であった。入院時から自宅退院の希望が聞かれていた。
【評価】
身体機能の評価項目は握力,等尺性膝伸展筋力を測定し,ADLはFunctional Independence Measure(以下: FIM)を用いて評価を行った。栄養評価は,Mini Nutritional Assessment-Short Form(以下:MNA-SF),アルブミンを評価した。
【介入と経過】
運動療法は入院翌日から開始した。入院時評価は,握力17.9kg,等尺性膝伸展筋力は0.39Nm/kgであった。FIMは71点であり,下位項目では移乗が3点,移動が1点と低下していた。悪液質を呈しており,栄養状態はMNA-SFで2点,アルブミン:2.4g/dLであった。運動療法はがん悪液質ガイドラインに則り,修正Borgスケール9程度の筋力増強運動を中心に行った。またHarris-Benedictの推定式を用い,1日のエネルギー消費量がエネルギー摂取量を上回らないようにした。エネルギー摂取量は経口で約1,250Kcalであり,3Mets程度の負荷量で40分を目安に運動療法を実施した。運動療法と併せて環境調整を行った結果,FIMは77点に向上し,下位項目では移乗が5点,移動が4点に改善を認めた。入院から3週目に呼吸困難感と疼痛が増悪し,それに伴う鎮痛剤変更の影響で倦怠感や食思低下が出現した。経口での栄養摂取が困難となりエネルギー摂取量が500Kcal程度まで低下したため,1.5Mets程度まで負荷量を減弱させ,体調に合わせて1日約20分間可能な範囲の運動療法を継続した。その後,全身状態の悪化に伴って身体機能は徐々に低下し,入院から4週目で死亡退院となった。
【考察】
今回,終末期食道がん患者に対し,栄養状態に合わせ負荷量を考慮した運動療法を実施したことで,最期まで介入を継続することが可能となった。恒藤らは,終末期がん患者において死亡2週間前から移動・ 移乗能力が低下し,約25%の症例で自力移動が困難になると報告している。本症例においては,経口での栄養摂取に合わせて摂取エネルギー量を上回らない範囲での運動療法を行い,一時的にではあるがFIMの移乗・移動能力の改善を認め,身体機能低下をより緩徐にすることが可能であった。終末期がん患者においても適切な負荷量を設定し介入することで,ADLや身体機能を維持できる可能性が示唆された。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には説明を行い,同意を得た後に実施し,ヘルシンキ宣言に則り倫理的配慮に基づいてデータを取り扱った。また,本報告に開示すべき利益相反関係にある企業等はない。なお,発表に際して垂水中央病院の承認を得た。