主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2021 from SASEBO,長崎
回次: 1
開催地: 長崎
開催日: 2021/10/16 - 2021/10/17
p. 137
【はじめに】
視床は大脳皮質と多くの繊維と連絡しており、視床出血を生じると運動麻痺、感覚障害、高次脳機能障害、pusher 現象などを呈することが多い。先行研究において血腫量が10mm 未満の視床出血患者は機能予後が良好との報告があるが、臨床場面では血腫量が少量の視床出血であっても、歩行自立に至らない患者が散見される。本研究は、血腫量が10mm 未満であった初発の視床出血患者を後方視的に調査し、歩行自立の関連因子について明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は2016 年1 月1 日~ 2020 年12 月31 日までに当院回復期病棟へ入院した初発で血腫量が10mm 未満の視床出血患者24 例(発症前の歩行が自立していない者、状態悪化で転院した者、既往に中枢神経障害を呈する者は除外)とした。一般情報(年齢、性別)、麻痺側、在院日数、入退院時の下肢のBrunnstromstage、下肢の表在感覚・位置覚障害の程度、注意障害の有無、pusher 現象の評価としてSCP の点数を当院カルテ上より後方視的に調査した。また、発症日のCT 画像より、松果体レベルでの内包後脚の損傷の有無、脳室穿破の有無、血腫量を調査した。対象者を退院時の歩行能力からFIM1 ~ 5 点を非自立群、FIM6 ~ 7 点を自立群とし、各項目を2群間で比較した。また、有意差を認めた項目に関してそれぞれの相関関係を調査した。統計解析ではt検定、Mann-Whitney ‘s Utest、χ ² 検定、Fisher の正確確立検定、Spearman の順位相関係数を用いて検証し、有意水準はいずれも5%未満とした。
【結果】
対象の平均年齢は71.5 ± 10.6 歳、男性12 名、女性12 名、左片麻痺11 名、右片麻痺13 名。2 群の内訳は歩行自立群14 名、非自立群10 名であった。両群の比較では、在院日数、入退院時下肢のBrunnstrom stage、入退院時下肢の位置覚障害、退院時注意障害の有無、入院時SCP の点数、松果体レベルでの内包後脚損傷の有無において有意差を認めた(p< 0.05)。血腫量に関しては、自立群4.9 ± 2.4mm、非自立群7.0 ± 2.8mm と有意差を認めなかった。また、入院時下肢のBrunnstrom stage と入院時下肢の位置覚障害(r =0.66、p<0.05)、退院時下肢のBrunnstrom stage と退院時下肢の位置覚障害において強い相関を認めた(r =0.72、p< 0.05)。入院時下肢のBrunnstrom stage と入院時SCP の点数においては強い負の相関を認めた(r =-0.83、p< 0.05)。
【考察】
本研究結果においては、下肢の随意性低下、下肢の位置覚障害、注意障害、SCP の点数が歩行予後に影響していた。視床は内包後脚に隣接しており、視床出血では運動麻痺が出現しやすく、また、感覚障害、pusher 現象の責任病巣である後外側腹側核、後外側部への損傷をきたしやすい。さらに、出血の進展が背内側核へ及ぶと注意機能に影響を与え歩行予後不良をきたすと考えられた。歩行自立と相関のあった項目の関係性においては、下肢のBrunnstrom stage、下肢の位置覚障害、SCP の点数に相関を認めたことから、これらの項目が相互に影響することで歩行予後不良に繋がると考えられた。視床出血による血腫量が少量であっても、損傷部位や出血の進展方向を確認し、適切な評価、解釈を行っていくことが重要であると考える。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:2008)。また、得られたデータは個人情報が特定出来ないよう十分な配慮をした。