九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2021
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児童発達支援事業での発達性協調運動障害を有する幼児に対するアプローチ
*福﨑 美智子*須山 祥康*重松 康志
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p. 28

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抄録

【はじめに】

近年、理学療法分野でも発達性協調運動障害( 以下DCD) を有する児童についての関心が高まっている。今回、児童発達支援に通所中の5 歳のDCD 児に対し特性に配慮したサーキット活動にて運動経験を積むことで、姿勢が安定し活動性の向上がみられたので報告する。

【症例紹介】

3 歳で言語療法を開始し、4 歳でDCD、自閉スペクトラム症疑いの診断を受け作業療法を開始する。その後、家族より「集団行動の困難さ、転びやすい」等の訴えがあり児童発達支援開始となった。人懐っこい男児で誰にでも話しかける。コミュニケーションの困難さや、順番や勝ち負けに対する強いこだわりなどの特性があり、思い通りにならない時などに癇癪がみられる。感覚プロファイルでは触覚、聴覚過敏と低登録が混在し、耐久性・筋緊張に関する感覚処理の難しさがみられた。

【理学療法評価(2019 年5 月5 歳)】

生育歴は定頸5 ヶ月、移動はshuffling が主体で始歩1 歳6 ヶ月であった。Beighton スコアは2 点と低値であったが、立位姿勢では股関節の伸展が不十分で腰椎の過度な前弯がみられ、体幹・下肢の粗大筋力の低下が伺えた。歩行はワイドベースで、つま先の支持性は低下し外反足を呈している。平均台歩行や片足立ちは困難であり転倒しやすい状態で、粗大運動の発達レベルは30 ヶ月であった。ADL では衣服の着脱や排泄に介助を要していた。集団活動の中においては易怒性や回避行動が観察された。

【臨床意志決定過程】

本児の特性に配慮しながら様々な環境での身体の使い方や感覚の経験を積んでいくことで、集団活動の適応や身体機能面の向上を図ることが出来るのではないかと考え、集団での運動内容や課題を検討した。

【介入期間】

2019 年5 月10 日から11 月30 日までの約6 ヶ月間、月に2 回程度の頻度で来所された。

【介入内容】

初期の導入として回避傾向のある本児が集団での運動活動に参加しやすいようにルール設定や環境などを配慮した。抗重力活動を取り入れたマット運動やくぐる、渡るなど環境に応じて体を動かすことをサーキット形式で取り入れ、体幹や下肢の機能を高め、徐々に課題の難易度を上げていった。また、家庭や保育園とも取り組む運動課題を明確にしてスモールステップで成功体験を積めるように、情報共有や介入の統一化を図った。

【結果】

サーキット活動の目的の一つでもある順番や、最後までやり遂げるなどのルールを守り活動に参加出来るようになった。平均台歩行や片足立ちが出来、転ばずに走れるようになるなど、粗大運動発達レベルは36 ヶ月となった。また感覚プロファイルでは改善はみられなかった。

【考察】

乏しかった運動や感覚の経験を補うことで体幹機能の賦活と姿勢制御の発達を促し、協調運動の困難さは軽減したのではないかと考える。さらに運動に対する自信が向上し易怒性や回避行動は減り、課題にチャレンジできることが増えた。これらは小集団の活動でサーキットの流れを習慣化できたこと、家庭や保育園での関りも大きかったと考える。

【まとめ】

低年齢でスムーズに運動課題に取り組むことが難しいDCD 児を担当した。児童発達支援の小集団の活動の中で、運動経験を補い運動の習慣化を図ることが出来、運動発達・不器用さの改善を促す事が出来た。今後も運動課題を明確にして更なるアプローチを継続していきたい。

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究の計画立案に際し,事前に所属施設の倫理審査員会の承認を得た(承認日2021 年5月7 日)。 また研究の実施に際し,対象者に研究について十分な説明を行い,同意を得た。

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© 2021 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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