主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2021 from SASEBO,長崎
回次: 1
開催地: 長崎
開催日: 2021/10/16 - 2021/10/17
p. 34
【はじめに】
島田らは、ヘルニアの術後リハビリテーションに関して「それぞれの麻痺筋や歩行障害に応じた筋力訓練や歩行訓練を行い、場合によっては装具の装着を考慮する。術後の筋力の回復には数カ月以上の長期を要する場合が少なくない」としている。今回、第4/5 腰椎椎間板ヘルニアにより馬尾神経症状が出現し、歩行障害を呈した症例を担当した。歩行能力の向上を図る為、体幹機能訓練に加えて麻痺筋や感覚障害に対するアプローチ、装具を使用した歩行訓練を行った結果、歩行能力が改善し、独歩にて自宅復帰が可能となった為、ここに報告する。
【症例紹介】
30 歳代女性。第4/5 腰椎椎間板ヘルニアによる腰痛、下肢の痺れと筋力低下があり、待期手術を予定していたところ膀胱直腸障害が急速に進行した為、X月Y日にヘルニア摘出術を施行され、リハビリ継続目的でY +20 日に当院入院となった。
【歩行初期評価:22 病日目】
単脚支持期:骨盤側方動揺,toe clearance 低下, 視線は常に下向き 両脚支持期:不十分なpush off,foot slap
【理学療法初期評価:22 病日目】
MMT( 右/ 左):中殿筋2/2, 大殿筋4/4, 前脛骨筋4/4, 長趾伸筋2/2, 下腿三頭筋2/2, 長母指屈筋2/2, 脊柱起立筋4, 腹直筋3 表在感覚( 右/ 左) 触覚 10点法:臀部中央部1, 下腿外側部8/6, 下腿後面下部3/3, 足底部6/3 10 m歩行:11.12 秒(21 歩)2 本杖 6 分間歩行:317 m ( 休憩0 回)2 本杖 ADL( 移動):室内2 本杖歩行自立 m-FIM:77 点
【問題点】
馬尾神経障害によるL4 以下の多恨性症状や廃用による体幹の筋力低下が、歩行時の骨盤側方動揺やtoe clearance 低下、foot slap、不十分なpush off、視線は常に下向きなどの現象に繋がり、歩行障害を呈していた。
【ゴール設定】
短期:(1)体幹とL4 領域以下の筋力向上(2) L4 領域以下の感覚障害改善 長期:(1)独歩自立(2)階段昇降 最終:(1)独歩による自宅復帰と復職
【アプローチ】
体幹・股関節周囲や下肢の筋力訓練, ステップ訓練, 歩行訓練, 感覚入力を約2カ月間実施
【歩行最終評価:86 病日目】
単脚支持期:骨盤動揺減少,toe clearance 改善, 視線も前向きへ 両脚支持期:push off 改善,foot slap 改善
【理学療法最終評価:86 病日目】
MMT( 右/ 左):中殿筋3/3, 長趾伸筋3/3, 下腿三頭筋3/2+, 長母指屈筋3/3,脊柱起立筋5, 腹直筋5 表在感覚( 右/ 左) 触覚 10 点法:足底部8/4 10 m歩行:7.5 秒(17 歩) 独歩 6 分間歩行:415 m ( 休憩0 回) 独歩 ADL( 移動):屋内外独歩 m-FIM:87 点
【考察】
下肢感覚入力の賦活により視線が前向きになったことや、体幹・股関節周囲の筋力増強による骨盤動揺の減少により単脚支持期が安定。また骨盤動揺が減少したことで体幹や荷重側下肢からのエネルギーが対側下肢へ効率的に伝わるようになった。さらに、下肢筋力増強によりtoe clearance やfoot slap、push offが改善し、ロッカー機能による前方推進が可能となったことで独歩での歩行能力が改善、歩行速度向上にも繋がったと考える。
【まとめ】
今回、第4/5 腰椎椎間板ヘルニアにより馬尾神経症状が出現し、歩行障害を呈した症例を担当した。体幹機能訓練に加えて麻痺筋や感覚障害に対するアプローチ、装具を使用した歩行訓練を行った結果、単脚支持期での姿勢が安定し、歩行速度も向上。独歩での移動が可能となり自宅復帰、復職に繋がった。馬尾神経障害に関して田島らは「予後予測は難しいが、基本的に末梢神経損傷ともいえるので、完全麻痺に見えても年単位の時間をかけて回復する場合もある」と述べており、退院後の継続したリハビリテーションも重要となる。今回の経験を今後に活かし、さらに知見を広げていきたい。
【倫理的配慮,説明と同意】
本発表はヘルシンキ宣言に則り、実施に際して対象者に十分な説明を行い、同意を得た。