主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2021 from SASEBO,長崎
回次: 1
開催地: 長崎
開催日: 2021/10/16 - 2021/10/17
p. 4
【はじめに】
回復期リハビリテーション病棟の理学療法士にとって、脳卒中患者の歩行能力の向上は重要な課題である。片麻痺者の歩行障害に対するアプローチの課題として、運動麻痺改善の治療不足、歩行訓練時の麻痺側荷重、非麻痺側強化の不足などが挙げられる。促通反復療法に関する報告として、下肢の運動麻痺や歩行能力を改善する(Kawahira, et al 2004) や持続的電気刺激との併用で効果を増大する(Shimodozono, et al 2014) などがあり、多電極電気刺激併用の訓練が電気刺激無しの訓練と比べて運動麻痺や歩行能力の向上に繋がる可能性がある。
【目的】
回復期脳卒中患者1 症例に対し、(A) 電気刺激無しの促通反復療法と歩行訓練と(B) 多電極電気刺激下の促通反復療法と歩行訓練を行い、歩行能力に与える影響を比較検証する。
【方法】
症例は70 歳代女性、発症20 日目の右橋ラクナ梗塞による左片麻痺である。介入開始時の理学療法評価として、12 段階片麻痺回復グレードは下肢、上肢、手指いずれも12、徒手筋力検査(MMT)は麻痺側股関節3、膝関節3 ~ 4、足関節5 レベルであり、健側下肢は4 ~ 5 レベルであった。歩行はT 字杖で近位監視レベルで、健側立脚期に健側へのフラツキを認めていた。研究デザインはクロスオーバーデザイン(A1 → B1 → A2 → B2)とし、各期をそれぞれ1 週間設けた計4 週間とした。A 期は電気刺激無しの促通反復療法と歩行訓練を実施、B 期は多電極電気刺激を促通反復療法と歩行訓練に併用した。電気刺激部位は、促通反復療法時が麻痺側の(1)中殿筋、(2)前脛骨筋・長趾伸筋、歩行訓練時には上記部位に(3)健側の脊柱起立筋を加えた計3 ヵ所とした。使用機器はITO-320、刺激パラメータはコンスタントモード、周波数50Hz、パルス幅200 μ sec、電流強度は筋収縮が若干感じられる程度(13-16mA)とした。評価は10m 最大歩行速度・歩数で、即時効果の影響を除くため理学療法開始前に実施し、2 回計測して最大値を採用した。解析方法は中央分割法によるceleration line を用いた比較、加えてA1+A2 とB1+B2 の比較をWilcoxon 符号付順位和検定( 有意水準:5%) を用いて検証を行った。
【結果】
最大歩行速度の改善率はceleration line でA1 < B1、A2 < B2 であり、統計解析においてもA1+A2 < B1+B2(p < 0.01) と電気刺激を併用したB 期で歩行速度が有意に高い結果であった。歩数の改善率はceleration line でA1 < B1、A2 = B2 であり、統計解析ではA1+A2 > B1+B2(p < 0.05) とB 期で10m 歩行に要した歩数が有意に少ない結果となった。
【考察】
多電極電気刺激を併用した訓練が多電極電気刺激無しの訓練より最大歩行速度と歩数とも改善が大きかった。促通反復療法と歩行訓練に多電極電気刺激を併用し、歩行に関連した神経の興奮水準を高めることで、麻痺側下肢の運動パターン獲得と健側立脚期の体幹の安定性向上に関与した可能性があると考える。一般的に発症後早期ほど治療効果は大きいと考えられるが、今回得られた結果はB 期の治療結果が大きいというものであった。これはB 期の介入が効果的であったことを意味しており、多電極電気刺激を併用した訓練が多電極電気刺激を併用していない訓練より効果的であると考える。
【まとめ】
回復期脳卒中患者の理学療法において、促通反復療法と歩行訓練に多電極電気刺激を併用することで、歩行能力の向上を促進する可能性ある。
【倫理的配慮,説明と同意】
倫理的配慮としてヘルシンキ宣言を遵守し、対象者には研究の目的や内容について説明を行い、紙面にて同意を得た。