九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2021
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Wallenberg 症候群によりめまいを主訴とした症例への運動療法
*戸上 潤哉
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キーワード: 前庭機能, めまい, 平衡機能
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p. 5

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抄録

【はじめに、目的】

Wallenberg 症候群の症状として眼振やめまいが出現する。両者は前庭神経の損傷で出現することが(城倉2011)報告されており、前庭機能に対する治療が有効な可能性がある。前庭機能に対してはCawthorne らが1940 年代から運動療法の必要性を述べて以降、末梢性前庭疾患を中心に運動療法の効果が報告されている。今回Wallenberg 症候群によりめまい・平衡機能障害を呈した症例に対して、約4 ヶ月間の運動療法を実施した結果を報告する。

【方法】

症例は左椎骨動脈解離によるWallenberg 症候群を発症した40 代男性で、他病院で入院・外来リハを実施した後、187 病日から当院外来リハを週1 回実施した。起居動作や屋外歩行、パソコン操作時など頭部・眼球の位置変化後にめまい、ふらつきを訴えられ、眼球運動障害として複視や左側注視時の回旋性眼振がみられた。めまい・平衡機能障害は前庭動眼・脊髄の機能不全と(内山1993)報告されており、前庭動眼・前庭脊髄に対しては絵カードを用いてGazeStability Exercise を眼球及び頚部のみの運動から開始した。その後眼球と頚部の複合した運動を行い、同時にバランスクッションを用いた運動療法を実施した。めまい・平衡機能の評価としてDizziness Handicap Inventory(以下DHI)及び重心動揺計(アニマ社製BW-6000)を用い30 秒開眼・閉眼立位と足踏み検査時の外周面積、単位面積軌跡長、総軌跡長を測定した。また眼振の評価としてNRS を用い眼振の速度を(10:1番速い)として聴取した。開始時の身体機能は左上下肢に失調、SARA5 点(歩行3点、立位・踵- 脛試験1 点)、躯幹協調機能stage I、SIAS66 点、右半身の表在感覚軽度鈍麻、右半身及び左顔面の温痛覚脱失、極軽度のホルネル症候群がみられた。

【結果】

DHI は72/100 点( 身体24 点・感情20 点・機能28 点) から38/100 点(身体14 点・感情12 点・機能12 点)へと改善した。外周面積(cm2)は開眼4.43 から4.01、閉眼4.65 から3.39、足踏み検査153.49 から109.32 となった。総軌跡長(cm) は開眼50.81 から50.64、閉眼65.86 から72.78、足踏み検査911.06 から843.06 となった。単位面積軌跡長(1/cm)は開眼11.48 から12.63、閉眼14.15 から21.5、足踏み検査5.94 から7.72 となった。また左側注視時の回旋性眼振はあるが、NRS7/10 から2/10 となり、SARA5 点から3 点(歩行・立位・踵- 脛試験1 点)と改善した。

【考察】

DHI、NRS の結果から本症例の主訴であるめまいや眼振においては改善を示した。動作時の平衡機能として測定した足踏み検査では、外周面積、総軌跡長の減少及び単位面積軌跡長の延長がみられ、平衡機能においても改善を示したと考えられる。またSARA においても改善を認めた。(kandel,2014)によると前庭動眼反射及び前庭脊髄反射ともに小脳の関与が報告されており、本症例においても小脳がめまい・平衡機能に関与した可能性も示唆された。

【倫理的配慮,説明と同意】

本報告は当院倫理委員会の承認を得た(承認日令和2年4月21日)ものであり、対象者には本報告の内容及び個人情報保護について説明し、文書にて同意を得た。また開示すべきCOI はない。

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